【仏教解説】第10回_諸法無我とは。おかげさまで今がある

【仏教解説】のコーナーでは、仏教に関するテーマを一つ取り上げて、できるだけ分かりやすくご紹介しています。仏教やお寺を身近に感じていただいたり、日々を安らかに、穏やかに過ごすようなご縁となれば幸いです。

今回は、諸法無我という言葉について、皆様と一緒に味わってみたいと思います。

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◆諸法無我とは

さて今日は、諸法無我という言葉について、皆様と一緒に味わってみたいと思います。

諸法無我という言葉を仏教の辞書で調べてみますと、このような意味だそうですね。

「全てのものは因縁によって生じたものであり、永遠不変の実体ではないこと」

とあります。

 

◆因縁によって生じている

「全てのものは因縁によって生じたものである」という言葉は、理解するのはそれほど難しい言葉ではありません。

例えば、我々も色々な因縁によってこの世にいのちをいただき、今こうして存在しています。

直接的には、両親や祖父母の存在があり、間接的には、友達や先生とか、職場の人とか、同時代を生きている様々な人の存在があり、我々はこうして生きています。

他にも、要素という観点でいうと、我々人間は、この身体や脳や、心などがあって存在しています。

このように、我々という人間の場合で考えてみても、様々な要素によって形成され、多くの因縁によって今こうして存在していることが言えます。

諸法無我とは、我々も含めた全てのものは因縁によって生じたものであるという意味が一つあるかと思います。

ただし、こうした話は、「それはそうですよね」と受け流してしまうような時も我々はあるかと思うんですね。

自分自身で考えてみても、つい頭で理解してしまうこともあります。

では、この「全てのものは因縁によって生じたものである」という言葉から、我々は何を学べるのでしょうか。

 

◆おかげさまで今がある

諸法無我は、いくつかの側面から考えることができますが、一つは「おかげさまで今がある」ということを、事実として受け止める心が開かれてくるという意義があるかと思います。

それは、「おかげさまで今がある」ということに、深い喜びや温もりを感じられるような心が育まれてくると言ってもいいかもしれません。

東日本大震災で、夫と夫の両親の三人を津波で失った、菅原文子さんという方がおられます。

夫と夫の両親の三人は、菅原さんの目の前で波にのまれ、後にご遺体で発見されることになります。

その日以上の悲しみはないほどに、悲しみに暮れたと言います。

ご家族と営まれていた酒屋も津波で破壊されたそうですが、震災から一カ月半後、どん底の中でお店を再開したそうです。

プレハブとテントで、ビール箱の上に商品を並べて、営業を再開したと言います。

お店を再開しなければ正常でいられないような、ギリギリの精神状態だったそうです。

身一つで助かり、何から何までお世話になるしかないほど全てを失い、お店を再開することを励みとして、何とか立っていられる。そういう状態だったと言います。

それから10年後、そうしたご経験や思いが記された著書、『生かされて』が発行されました。

そこには、こう書いてありました。

皆様ありがとう。
ご縁をいただき支えていただき本当にありがとうございました。
おかげ様で生きてこれました。

菅原さんの経験から語られる「ありがとう」や「おかげさま」という言葉から、人は支え支えられながら生きていることや、人が生きるとはどういうことなのかをすごく考えさせられました。

「おかげさまで今がある」ということを、事実として受け止めておられる方の姿や言動を通して伺うと、「全てのものは因縁によって生じたものである」という諸法無我の言葉は、とても深く受け止められてくるものだと感じました。

そんなに不自由な暮らしをしていなければ、我々は一人で生きているような感覚になることもあるかもしれません。

忙しくて疲れた時や、人とのつながりが煩わしく感じられる時には、一人が最高だと感じる時もあるかと思います。

家電やインフラも整備されていて、娯楽も色々とある現代では、一人で生きていてもそう困りません。

ただ、それもやはり条件付きかなと思います。

病気をすると結構きついですし、震災にあったり、遭難した時には支え合わないと生きてはいけません。

また、完全に孤立しているような状況だと、何のために生きているのかなと思ってしまうこともあるでしょう。

そうしたことを考えると、この諸法無我という「全てのものは因縁によって生じたものである」という考え方を、一旦受け止めておく、学んでおくことには意味があるのではないかと思います。

そうした考え方に触れておくことで、「今自分があるのは当たり前ではない」ということや、「おかげさまで今がある」ということを、基本的な価値観として持っておけると思います。

いつもそうは思えない時もあるかもしれないけれども、折に触れて思うことができる、思い出させてくれるということがあるかと思います。

今自分があるのは当たり前ではないんだ。おかげさまで今があるんだ。

そうした我々の存在の事実を、事実として受け止める心が開かれ、そこに深い喜びや温もりが感じられるような心が育まれてくる。

仏法を学ぶことで、色々なことを教えていただくなあと、私自身感じるところです。

 

いかがだったでしょうか。

「仏教解説」ということで、本日は、諸法無我という言葉について、味わってみました。

諸法無我とは、「全てのものは因縁によって生じたものであり、永遠不変の実体ではないこと」という意味の言葉でした。

この言葉から、皆様はどのようなことを感じられたでしょうか。

次回は、諸法無我の言葉を別の視点から味わってみたいと思います。

 

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合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生

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◇参照文献:
・『浄土真宗辞典』/浄土真宗本願寺派総合研究所
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・『望月仏教大辞典』/世界聖典刊行協会
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・『岩波仏教辞典』第二版/中村元他
https://amzn.to/3AoOTY4
・『ブッダの真理のことば 感興のことば』/中村元 訳
https://amzn.to/3HNaJap
・『仏教入門』/ひろさちや
https://amzn.to/3Fyqf9g
・『ブッダ100の言葉』/佐々木閑
https://amzn.to/3naUIDf
・『生かされて』/菅原文子