今回は、「正信念仏偈」の行譜(ぎょうふ)のとなえ方を解説します。
浄土真宗本願寺派での「正信念仏偈」のとなえ方には、3種類のとなえ方があります。
本願寺から出版されている『日常勤行聖典』などのお経本には、そのうち二種類のとなえ方が記してあります。
その二種類のとなえ方とは、「草譜(そうふ)」と「行譜(ぎょうふ)」です。
「草譜」は、日常的にとなえるとなえ方です。
「行譜」は、本山の西本願寺では、宗祖親鸞聖人の月命日である毎月16日などにおとなえされています。
「行譜」は「草譜」に比べると、あまり耳馴染みがないかもしれません。
ですが、「となえ方を知りたい」というお声をいただきましたので、今回は「行譜」のとなえ方を解説していきます。
お経本をおもちの方は、手元にご準備いただき、書き込んだり、ご一緒にとなえたりしながらご覧ください。
一度に通して解説をすると長くなりますので、今回は前半部分のとなえ方を解説します。
▼動画にてご覧ください
◆草譜と行譜
さて、先程お伝えした通り、浄土真宗本願寺派においては、「正信念仏偈」には3種類のとなえ方があります。
そして、そのうち「草譜」と「行譜」という2種類のとなえ方が、お経本には記してあります。
「正信念仏偈」の最初のページをご覧ください。
ページの右側のほうに「右 草譜」と「左 行譜」と記してあります。
これは、「正信念仏偈」の文字の右側にある「博士」(はかせ)という印を見てとなえるとなえ方が「草譜」で、文字の左側にある「博士」を見てとなえるとなえ方が「行譜」ということを表しています。
「博士」とは、文字の横側に線で記された表記のことです。
例えば、「正信念仏偈」の最初のページでは、四句目の「在世自在王仏所」の「王仏所」の右側に線の表記がありますね。これが「博士」です。
お経には、となえる時に音の高さが変わるものがあります。
その音の高さや、音の移り変わりを表しているのが「博士」です。
西洋音楽では、楽譜に音符を記して、音の高さや変化を表していますね。
日本では、こうした「博士」という表記を用いて、音の高さや音の移り変わりを表していたのですね。
繰り返しますが、「正信念仏偈」では、文字の右側にある「博士」を見てとなえるとなえ方が「草譜」で、文字の左側にある「博士」を見てとなえるとなえ方が「行譜」です。
この「在世自在王仏所」という部分では、文字の右側に「博士」が記されています。
ですので、この「博士」は「草譜」のとなえ方を表したものになります。
今回は、「正信念仏偈」の「行譜」のとなえ方を解説しますので、文字の右側にある「博士」は気にしないでください。
文字の左側にある「博士」を見ながらとなえていきます。
とはいえ、「博士」だけを見てもどのようにとなえるのかは分かりませんね。
そのため、信行寺から出している『意訳本』には、「博士」の横に「ドレミファソラシド」で音の高さを表記しました。
こちらでは、その「意訳本」を表示していますので、音の高さの参考にしていただければと思います。
それでは、となえ方を見ていきましょう。
◆帰命無量寿如来
改めて「正信念仏偈」の最初のページをご覧ください。
そのページの右上に鏧二声(きんにせい)という言葉と、丸が二つ書いてあります。
この鏧二声とは、鏧を二回打つという意味です。
鏧を二回打ち、「帰命無量寿如来」という一句目からとなえていきます
最初の「帰命無量寿如来」の句ですが、この一句は一人でとなえます。
ご自宅で、お一人でとなえる場合は、「帰命無量寿如来」からおとなえください。
もし、ご家族と一緒におとなえされる場合や、お寺の法要でとなえる際など、複数名でとなえるような場合は、お一人が「帰命無量寿如来」の一句をとなえ、他の方は二句目の「南無不可思議光」からとなえます。
次に、「帰命無量寿如来」という句の文字の右側を見てみると、「引」という印が何か所か記してあります。
「帰命」の「命」と、「無量」の「量」、「如来」の「来」の右側に、それぞれ「引」という印がありますね。
この「引」という印は、その文字を引っ張ってとなえる、伸ばしてとなえるという意味の印です。
先程、「正信念仏偈」の「行譜」は、文字の左側にある「博士」を見ていくと言いました。
しかし、「博士」以外の印については、文字の右側にまとめて記されていることもあります。
例えば、この「引」という印がそうです。
この「引」という印は、「草譜」でも「行譜」でも、右側にまとめて記してあります。
ですので「行譜」でも、「博士」以外の印については、文字の右側を見ていくことがあります。
この「引」という印があるところは、その文字を引っ張って、伸ばしてとなえます。
また、「正信偈」には拍があります。基本的には、1つの漢字に対して1拍でとなえます。
「引」という印があるところは、伸ばして2拍でとなえます。
この「帰命無量寿如来」という部分では、最初の「帰」は、文字の右側に「引」の印がないので1拍です。
そして、次の「命」は、「引」の印があるので2拍になります。
その次の「無量」の「無」は、「引」の印がないので1拍です。
そして「量」は、「引」の印があるので2拍になります。
次の「寿」と「如」は、「引」の印がないので、それぞれ1拍ずつです。
そして、次の「来」ですが、よく見ると平仮名の「い」の文字の右側に、「引」の印があります。
この「来」は、「ら」が1拍、「い」が2拍の合計3拍でとなえます。
この「来」は、となえ方が変則的です。
ちなみに、「正信念仏偈」の前半部分の音の高さは、「レ」の音が基本になっています。
それでは、鏧を打って、この一句をとなえてみます。
「帰命無量寿如来」
◆南無不可思議光~
さて、二句目の「南無不可思議光」という句をご覧ください。
「南無不可思議光」の「光」の右側に、「引」の印があります。
ですので、「光」の文字は伸ばして、2拍でとなえます。
「光」以外は、1拍です。
三句目の「法蔵菩薩因位時」も、「時」の右側に「引」の印があります。
ですので、「時」の文字も伸ばして、2拍でとなえます。
ではこの部分もとなえてみます。
「南無不可思議光 法蔵菩薩因位時」
ここまでは、「草譜」も「行譜」も同じとなえ方です。
◆在世自在王仏所
四句目の「在世自在王仏所」ですが、「王仏所」の右側に「博士」の印があります。
ですので、「草譜」でとなえる場合は、音の高さが変ります。
ですが、今回の「行譜」では、左側に「博士」はありませんので、音の高さは変わりません。
「草譜」をよくとなえたりしていて耳馴染みがある方は、この部分が一番間違えやすいところです。
気を抜いていたら、私も間違えることがあります。
この部分は、音の高さが変わらないことに注意して、おとなえいただければと思います。
では、ここまでの四つの句を、通してとなえてみます。
「帰命無量寿如来 南無不可思議光 法蔵菩薩因位時 在世自在王仏所」
ここまでのとなえ方が分かれば、前半部分はおおよそ同じようなとなえ方になります。
これ以降は、今説明したところとは違う部分を説明していきます。
◆超発希有大弘誓
では、次のページをご覧ください。
そのページの最後の句に、「超発希有大弘誓」とあります。
「希有」と「大弘」のそれぞれの文字の間に、棒線が引いてあるのがお分かりいただけるでしょうか。
このように、文字の間に傍線がある部分は、拍が変則的になります。
傍線の前の文字が1.5拍、後の文字が0.5拍となります。
ですのでここでは、「希有」の「希」が1.5拍、「有」が0.5拍になります。
「大弘」も「大」が1.5拍、「弘」が0.5拍になります。
そして、最後の「誓」の文字の右側に「引」の印がありますので、「誓」は2拍になります。
また、「大弘誓」の右側に「博士」の印がありますが、「行譜」ですのでここも音の高さは変わりません。
この一句をとなえてみます。
「超発希有大弘誓」
このような文字の間に傍線がある部分は、この後も数か所出てきます。
その部分も、こちらと同じとなえ方になります
◆是人名分陀利華
次に、数ページ後になりますが、「一切善悪凡夫人」とあるページをご覧ください。
そのページの最後の句、「是人名分陀利華」の「華」の文字の下に、棒線が引いてあります。
そして、次のページの「弥陀仏本願念仏」の上の部分に棒線が続いています。
ここの傍線は、二句続けてとなえるという意味の印です。
「是人名分陀利華」と「弥陀仏本願念仏」の二句は、息継ぎをせずに続けてとなえます。
ですが、息が続かない方は無理をせず、息継ぎをしていただいても構いません。
また補足ですが、「弥陀仏本願念仏」の「仏」の「つ」の言葉は、ほとんど発音しません。
口の中で軽く「つ」の形はつくりますが、「つ」とはっきりと発音をせずに、最後に軽くそえる程度です。
では、この二句をとなえてみます。
「是人名分陀利華 弥陀仏本願念仏」
◆中夏日域之高僧
さて、その次のページになりますが、その二句目の「中夏日域之高僧」という部分をご覧ください。
「中夏日域」の左側に「博士」の印があります。
ここの「博士」は文字の左側にありますので、「行譜」ではとなえる音が変わることを表しています。
「行譜」では、ここまでずっと「レ」の音でとなえますが、「中夏日域」の部分は「ミ」の音に変わります。
そして、「之高僧」の部分で、「レ」の音に戻ります。
また、「中夏日域」という文字の右側に「引」の印が多数あります。
それぞれ漢字一文字に対して、2拍ずつでとなえます。
「中」で2拍、「夏」で2拍です。
そのあとの「日域」もそれぞれ2拍ずつですが、少し変則的です。
「日」は「じ」が1拍、「ち」が1拍で、計2拍になります。
「域」も「い」が1拍、「き」が1拍で、計2拍になります。
この一句をとなえてみます。
「中夏日域之高僧」
◆為衆告命南天竺
今のようなとなえ方をするところがあと、二か所あります。
次のページの二句目、「為衆告命南天竺」という部分をご覧ください。
こちらも、「為衆告命」の左側に「博士」の印があります。
この「為衆告命」の部分も「ミ」の音に変わります。
そして、「南天竺」の部分で、「レ」の音に戻ります。
また、「為衆告命」の文字の右側にも、「引」の印があります。
「為衆告命」の部分は、漢字一文字に対して、それぞれ2拍ずつになります。
この一句をとなえてみます。
「為衆告命南天竺」
◆自然即時入必定
同じようなとなえ方をするもう一か所は、2ページ後になります。
そのページの二句目、「自然即時入必定」という部分をご覧ください。
こちらの「自然即時」の左側にも「博士」の印があります。
この「自然即時」の部分も「ミ」の音に変わります。
そして、「入必定」の部分で、「レ」の音に戻ります。
またここも、「自然即時」の右側に「引」の印があります。
「自然即時」の部分は、それぞれ2拍ずつになります。
この一句をとなえてみます。
「自然即時入必定」
◆至安養界証妙果
そして、次が前半部分の最後になります。
今のところから8ページ後の「三不三信誨慇懃」とあるページをご覧ください。
そのページの最後の句、「至安養界証妙果」の部分をご覧ください。
こちらも文字の右側に「引」の印が多数あります。
「引」の印があるところは、2拍でとなえるとお伝えしてきました。
ここはそれに加えて、次第にゆっくりという表記もあります。
ですのでここでは、2拍ずつを意識しながら、次第にゆっくりになっていくイメージでとなえます。
前半の最後の一句をとなえてみます。
「至安養界証妙果」
「正信念仏偈」をとなえ方で分ければ、ここまでが前半部分となります。
◆
いかがだったでしょうか。
今回は、「正信念仏偈」の「行譜」の前半部分のとなえ方を解説致しました。
細かく見ていくと、難しく感じられるかもしれません。
ですが、通してとなえてみると、前半部分は音の移り変わりが少ないので、慣れるとそれほど難しくありません。
繰り返しとなえると、馴染んでくるかと思います。
「正信念仏偈」の「行譜」をご一緒におとなえいただける動画を用意しておりますので、そちらに合わせて是非おとなえになってみてください。
合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
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