【仏教解説】のコーナーでは、仏教に関するテーマを一つ取り上げて、できるだけ分かりやすくご紹介しています。仏教やお寺を身近に感じていただいたり、日々を安らかに、穏やかに過ごすようなご縁となれば幸いです。
今回は、苦しみを和らげる仏教の考え方である四聖諦(ししょうたい)の二つ目、集諦(じったい)について、ご紹介したいと思います。
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◆四聖諦
さて前回から、四聖諦(ししょうたい)についてご紹介しています。
四聖諦(四諦)とは、苦しみを和らげる仏教の考え方、実践法のことです。諦とは真理という意味で、四聖諦で、四つの聖なる真理という意味の言葉になります。
その四つの真理とは、苦諦(くたい)、集諦(じったい)、滅諦(めったい)、道諦(どうたい)です。それぞれの頭文字をとって、苦集滅道(くじゅうめつどう)とも言われます。
前回は、四聖諦の一つ目の苦諦(くたい)についてご紹介しました。今回は、四聖諦の二つ目の集諦(じったい)についてご紹介します。
◆集諦
集諦とは、「苦しみの起こる原因についての真理」です。つまり、「なぜ苦しみが起こるのかについての教え」であり、「なぜ我々は苦しんでいるのかについての教え」です。
前回の苦諦では、我々が苦しみを抱えながら生きているという苦しみの結果が示されていました。そして今回の集諦では、その苦しみの原因は何かという苦しみの原因について示されています。
苦諦と集諦とは関連性があり、苦しみの原因と結果、つまり苦しみの因果が説かれています。では仏教では、苦しみの原因は何と考えているのでしょうか。
◆煩悩が苦しみを生む
仏教が考える苦しみの大きな原因は煩悩です。
初期の仏教経典では、この集諦にあたるところに、苦しみの原因は煩悩ですよと、端的に整理して書かれてはいません。ですが、仏教を整理して考えてみた時に、苦しみの大きな原因は煩悩だと、言っていいかと思います。
煩悩とは何かというと、心身を悩み煩わせるものだと言われます。
煩悩の代表的なものとしては、以前ご紹介した三毒の煩悩というものがありました。貪欲という貪りの心や、瞋恚という怒りの心、そして愚痴(無明)という真理に無知な状態。こうしたものが、煩悩の代表としてあげられます。また他にも、執着や妄執、渇愛なども挙げられています。
三毒の煩悩の一つ目の貪欲について、少し見てみましょう。
貪欲とは、貪りの心のことで、もっともっと欲しいと思う心のことです。
欲というと、我々は様々な欲を抱えながら生きています。例えば、お金や地位や名誉などを手に入れたいという欲があったり、承認欲求や、食欲とか性欲を満たしたいという思いなど、様々な欲があります。
その欲があるから、人生楽しいんじゃないか、欲望こそが人間をつきうごかしている原動力じゃないかという意見もあるかと思います。確かにそうだと思います。
お釈迦様(ブッダ)も、人間は欲望を抱えた存在であり、欲望が人間をつきうごかしていると見ていました。そして同時に、欲望が人間の苦しみを生んでいるとも見ていました。
お釈迦様の言葉に、このような言葉があります。
欲望をかなえたいと望み貪欲の生じた人が、もしも欲望をはたすことができなくなるならば、かれは、矢に射られたかのように、悩み苦しむ。
(『スッタニパータ』767)
欲望とは、それがかなえば楽しい思いにもなりますが、欲望がかなわなければ、悩み苦しみが生じます。
欲望とは人間をつきうごかすほど強いものだからこそ、人生の最後の最後までその欲望に振り回され続けたり、ずっと苦しみ続けることもありえます。
中々手に入らないものを、いつまでも欲しい欲しいと求め続けたり、いつまでも手に入らず苦しみ続けることもあります。
ですから、欲望とは人間をつきうごかすほど強いものだという事実や、欲望が苦しみを生んでいるということを認識しておくことが大事になるんですね。
我々は、こうあってほしいという思いをもちながら、思い通りにならない現実に苦しみます。だからこそ、仏教で苦しみとは、本質的には思い通りにならないこととされています。
我々は、貪欲のような貪りの心、煩悩を抱えています。そして、その欲望が思い通りにならない時に悩み苦しみます。
お釈迦様(ブッダ)は、こうした苦しみの起こる原因について、あきらかに知っておくことが大事だと言われています。そうしたことを知らないと、我々は貪欲などの欲望、煩悩によってこの人生が苦しみの方向に向かっていくこともあるからです。
こうした苦しみが起こる原因や構造について、無知な状態のことを、愚痴や無明と言っています。三毒の煩悩の一つでもあるこの愚痴(無明)が、煩悩の中でも根源的なものとされています。
ですから、仏教では苦しみを和らげていくために、苦しみが起こる原因や構造について、あきらかに知ることが大事だと言われるわけです。
◆
いかがだったでしょうか。
今回は、苦しみを和らげる仏教の考え方、実践法として、四聖諦(ししょうたい)の中の集諦について、ご紹介しました。
このように、四聖諦の集諦とは、「苦しみの起こる原因についての真理」が示されています。
そしてまた、苦しみを和らげていくための具体的な実践方法として、四聖諦の道諦のところに八正道が説かれていきます。
最後に今回の内容を少しだけ補足させてください。苦しみとは内的な要因だけでなく、外的な要因によって起こるものもあります。
戦争や紛争、震災などの外的な要因によって、苦しみを感じることもあります。他にも、パワハラやいじめなどで苦しむこともあります。
こうしたものの中には、あきらかに外的な要因によって生じている苦しみもあります。それらまで、自分の中に要因があると考えると苦しみが深くなります。
誰かの悪意や、まったくの偶然によって生じている苦しみもあるので、それらの起きていることを必然だとか、自分のせいだと考えると苦しみが深くなりますので、そこは注意が必要です。
外的な要因による苦しみは、外的なものだと考えて、そのことまで自分の要因だと考えないようにすること。外的な要因と内的な要因とを分けて考えること。苦しみを生じている外的な要因は、もし離れられるのであれば距離を置くこと。
こうしたことは、自分の心身の健康を守るためにも大切なことだと思います。そこは補足させていただきたいと思います。
次回は、また四聖諦の続きをご紹介させていただこうと思います。
―――
合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
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