【仏教解説】第15回_四聖諦③滅諦_涅槃・さとり・安らぎの境地

【仏教解説】のコーナーでは、仏教に関するテーマを一つ取り上げて、できるだけ分かりやすくご紹介しています。仏教やお寺を身近に感じていただいたり、日々を安らかに、穏やかに過ごすようなご縁となれば幸いです。

今回は、苦しみを和らげる仏教の考え方である四聖諦(ししょうたい)の三つ目、滅諦(めったい)について、ご紹介したいと思います。

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◆四聖諦

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さてこの数回、四聖諦(ししょうたい)についてご紹介しています。

四聖諦(四諦)とは、苦しみを和らげる仏教の考え方、実践法のことです。諦とは真理という意味で、四聖諦で、四つの聖なる真理という意味の言葉になります。

その四つの真理とは、苦諦(くたい)、集諦(じったい)、滅諦(めったい)、道諦(どうたい)です。

前回までに、苦諦と集諦について、ご紹介しました。今回は、四聖諦の三つ目の滅諦についてご紹介します。

◆滅諦

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さて滅諦とは、「苦しみの止滅についての真理」です。つまり、苦しみの原因である煩悩が止まり、苦しみが滅せられるという真理を表しています。

苦諦、集諦のところでお話しましたが、仏教では、苦しみの原因は煩悩にあると考えます。その苦しみの原因である煩悩が止まり、苦しみが滅せられるという真理を表しているのが、この滅諦です。

また、仏教では、煩悩が止まり、苦しみが滅せられた状態のことを、涅槃といっています。

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涅槃とは、昔のインドの言葉では、ニルヴァーナと言います。涅槃(ニルヴァーナ)とは、「煩悩の炎が吹き消された状態」のことを言います。

「ニル」という言葉は「外へ」という意味で、「ヴァーナ」という言葉は「吹く」という意味です。ですので、「ニルヴァーナ」で「外へ吹く」という意味になり、「煩悩が吹き消された状態」を表しています。

この涅槃という「煩悩が吹き消された状態」、「煩悩が止まり、苦しみが滅せられた状態」のことを、さとり、彼岸、安楽、解脱などとも言い、仏教が目指す究極的な安らぎの境地とされています。

◆安らかな境地

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では、その涅槃、さとり、彼岸、安楽、解脱などとも言われる「煩悩が吹き消された状態」「苦しみが滅せられた状態」とは、どのようなものなのでしょうか。

いくつかの意味があるのですが、涅槃、さとりとは、様々な煩悩を離れた、安らかな境地であることが示されています。

例えば、お釈迦様(ブッダ)の言葉に、このようなものがあります。

欲望や貪りを除き去ることが、不滅のニルヴァーナの境地である。このことをよく知って、よく気をつけ、現世において全く煩いを離れた人々は、常に安らぎに帰している。世間の執着を乗り越えているのである。

(『スッタニパータ』1086、1087)

このように、欲望、貪りといった煩悩を離れた、安らかな境地を涅槃やさとりと表現されています。

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また、そうした安らぎにまさる楽しみはないとも表現されています。

怨みをいだいている人々のあいだにあって怨むこと無く、われらは大いに楽しく生きよう。怨みをもっている人々のあいだにあって怨むこと無く、われらは暮らしていこう。貪っている人々のあいだにあって、患い無く、大いに楽しく生きよう。貪っている人々のあいだにあって、貪らないで暮らそう。このかりそめの身にひとしい苦しみは存在しない。やすらぎにまさる楽しみは存在しない。

(『ダンマパダ』197、199、202)

このように、涅槃やさとりとは、煩悩を離れた安らかな境地であり、そうした安らぎにまさる楽しみはないとも表現されています。

涅槃やさとりとは、他にも様々な言葉や意味をもって表現されていますが、ここでは主に、安らな境地という意味合いの言葉をあげました。

散乱放逸という言葉があるように、我々の心は、ほうっておくと自由奔放にふるまい、あちこちに散乱して、落ち着きません。

新しいものに目移りし、可愛いものやかっこいいものに心が惹かれる。気に食わないものがあれば、憎しみや怒りの心を起こし、人と比べては慢心したり、へこんだりする。

まさに散乱放逸というように、我々の心はほうっておくと、あちこちへと行って、一時も休まる時がありません。

このような散乱放逸の状態は、涅槃やさとりという安らかな境地とは程遠いことは、お分かりいただけるかと思います。

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そうした心が散り乱れた状態ではなく、「煩悩の炎が吹き消された状態」、「煩悩が止まり、苦しみが滅せられた状態」、とても安らかな境地のことを、涅槃やさとりといっています。

そして、そうした安らかな状態が、とても素晴らしいものであり、最上の楽しみや喜びでもあるわけです。

ですから仏教では、苦しみから離れた安らかな涅槃、さとりを目標とし、そこに至るにはどうすればいいのかが説かれています。

それが、四聖諦の四つ目となる道諦、八正道のところに説かれています。

ちなみに、涅槃やさとりに至る方法や考え方は、宗派によって様々です。私が所属する浄土真宗においては、涅槃、さとりといった安らかな境地に、自らの力で至ることは非常に難しいのではないかという考え方をします。

その大きな理由の一つは、凡夫と言われる身も心も弱いものにとって、自らの力でさとりに至ることは非常に難しいのではないかという問題があります。

また別の理由は、浄土真宗は出家仏教ではなく、多くの方々と共に生き、在俗の生活をおくる在家仏教、在俗の仏道であることが挙げられるかと思います。

詳しくはいずれの機会にお話できればと思いますが、そうした背景があって、お釈迦様の説かれたさとりへのアプローチと、浄土真宗のアプローチとでは違いがあります。

しかし、お釈迦様の説かれた四聖諦の教えも、現代を生きる我々にとって、とても参考になるものだと思います。

自分がなぜ悩んでいるのか、その原因を認識したり、自分の欲望や怒りといった煩悩を自覚する手助けになります。

悩んでいる時に、その原因や自分の状態を自覚しながら考えているのと、自分がどういう状態か、なぜ悩んでいるのかを分からずに悩むのとでは、大きな差があると思います。

煩悩をコントロールすることはとても難しいですが、悩みの原因や煩悩を自覚することで、無用に人を傷付けることを防ぐことができたり、自分の苦しみが和らぐこともあるでしょう。

お釈迦様の仏教とは、とても哲学的なものですので、その考え方の基礎を知っておくことで、安らかな日常生活や、人生を深めることにつながると思います。

いかがだったでしょうか。

今回は、四聖諦の滅諦について、ご紹介しました。次回は、四聖諦の続きをご紹介させていただこうと思います。

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合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生

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◇参照文献:
・『浄土真宗辞典』/浄土真宗本願寺派総合研究所
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・『望月仏教大辞典』/世界聖典刊行協会
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・『岩波仏教辞典』第二版/中村元他
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