浄土真宗【正信偈を学ぶ】第28回_本願名号正定業_名号 南無阿弥陀仏

【正信偈を学ぶ】シリーズでは、浄土真宗の宗祖である親鸞聖人が書いた「正信偈」を、なるべく分かりやすく読み進めています。仏教を学びながら、自らについて振り返ったり、見つめる機会としてご活用いただけますと幸いです。

前回まで、十二光という、阿弥陀仏もつ光のお徳を十二種に分けて讃えた部分について見てきました。前回で十二光の解説が終わりましたので、今回は続きの「本願名号正定業」という部分から見ていきたいと思います。

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◆正信偈の偈文(げもん)

ではまず、今回の内容に当たる部分の「正信偈」の本文と書き下し文、意訳を見てみましょう。

【本文】
本願名号正定業 至心信楽願為因
(ほんがんみょうごうしょうじょうごう ししんしんぎょうがんにいん)
成等覚証大涅槃 必至滅度願成就
(じょうとうがくしょうだいねはん ひっしめつどがんじょうじゅ)

次に書き下し文です。

【書き下し文】
本願の名号は正定の業なり。至心信楽の願を因とす。
等覚を成り大涅槃を証することは、必至滅度の願成就なり。

次に意訳です。

【意訳】
阿弥陀仏は、あらゆるものを浄土という仏の国に往き生まれさせると、本願(第十八願)に誓われました。そして、その願いと修行の功徳を、南無阿弥陀仏という名号(名のり)に込め、私たちを救おうとはたらきかけておられます。ですから、南無阿弥陀仏の名号(名のり)が、私たちを救うはたらきとなり、至心信楽の願(第十八願)に誓われた信心が、浄土に往き生まれる因となるのです。
そして私たちが、等覚という浄土に往き生まれることが定まった位となり、大涅槃のさとりをひらくことは、必至滅度の願(第十一願)が成就されたことによります。

◆法蔵菩薩の発願修行

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さて、今回から「正信偈」の「本願名号正定業」から「必至滅度願成就」までの四句を見ていきます。まず今回は、「本願名号正定業」の一句を見ていきたいと思います。

さて、以前に見てきた「正信偈」の冒頭のほうでは、法蔵菩薩が阿弥陀仏になるまでの発願修行の物語について書かれていました。ある国王が、世自在王仏という仏様の説法を聞いて感激し、王の位を捨て出家されます。そして、法蔵という名の菩薩となられました。

「正信偈」冒頭の「法蔵菩薩因位時 在世自在王仏所」というあたりに、今お話した内容が書かれています。覚えていらっしゃいますでしょうか。忘れていても大丈夫です。何度もこのようにお話をしながら、味わいを深めていきますので、どうぞご安心ください。

さて、王の位を捨て出家された法蔵菩薩とは、後の阿弥陀仏のことですが、その法蔵菩薩が願いをおこします。願いをおこすことを発願と言います。「正信偈」の冒頭のほうに、法蔵菩薩が阿弥陀仏になるまでの発願修行の物語について書かれていると申しました。その発願ですね。

具体的には、四十八願といって、法蔵菩薩が四十八の願いをおこします。法蔵菩薩は世自在王仏のもとで、様々な仏の国の様子をご覧になったり、仏の国におられる人々や神々の善悪などをご覧になりながら、五劫というとても長い間思惟して、四十八願をお建てになりました。「正信偈」の「覩見諸仏浄土因」から、「重誓名声聞十方」というあたりまでのところに、今お話したような内容が書かれています。

また、四十八願の中で、根本の願いのことを本願と言っています。根本の願いで、本願ですね。さて、ここで問題ですが、四十八願の中の根本の願い、本願とは何番目の願いでしょうか。覚えていらっしゃいますか。

正解は、十八番目の第十八願ですね。十八という数字は、「おはこ」と言われたり、野球のエースナンバーだったりと、日本で大切にされている数字ですが、それは、この第十八願、本願と関係があるそうです。その四十八願の中の第十八願を、法蔵菩薩(阿弥陀仏)の根本の願いということで、本願といっているんですね。

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今回の「正信偈」の文章には、「本願名号正定業」と、本願という言葉が出てきました。この本願が、法蔵菩薩(阿弥陀仏)が建てた四十八願の中の根本の願いのことで、第十八願です。

では、この第十八願はどんな願いかというと、これは直接的な言葉ではなくて意訳になりますが、端的にいうと「悩み苦しむものを救いたい」という願いだと言われます。悩み苦しむものを見て、救わずにはおれない。そのように思われ、悩み苦しむものたちを救うために、法蔵菩薩は四十八の願い、本願をおこしたと言われます。

そして、その願いを成就するために、さらに兆載永劫(ちょうさいようごう)という果てしない時間をかけて修行をなさいます。そしてついに、その願いを成就され、法蔵菩薩は阿弥陀仏という仏様となられます。そうした内容が、「正信偈」の冒頭に書かれていました。

◆名号 南無阿弥陀仏

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そして、「悩み苦しむものを救いたい」という法蔵菩薩(阿弥陀仏)の願いと、その願いを成就するためにおこなわれた修行の功徳が込められたものが、南無阿弥陀仏という名号だと言われます。今回の「正信偈」の「本願名号正定業」という言葉の中にある名号ですね。

この南無阿弥陀仏という名号とは、阿弥陀仏の名のりとも、喚び声とも言われます。南無阿弥陀仏の南無とは、阿弥陀仏の勅命のことで、私にまかせなさいという意味です。ですから南無阿弥陀仏で、「阿弥陀仏の救いにまかせなさい」という意味になります。

そうした「阿弥陀仏の救いにまかせなさい」という阿弥陀仏から私たちへの名のり、喚び声が南無阿弥陀仏の名号です。そして、南無阿弥陀仏の名号には、「悩み苦しむものを救いたい」という法蔵菩薩(阿弥陀仏)の願いと、その願いを成就するためにおこなわれた修行の功徳が込められています。

ですから、私たちが聞く南無阿弥陀仏とは、ただ呪文としての言葉を聞いているのではないんですね。「阿弥陀仏の救いにまかせなさい」という阿弥陀仏から私たちへの名のりと、喚び声を聞いているわけです。

そしてそれは、「悩み苦しむものを救いたい」という、阿弥陀仏の願いを聞いているということであり、実際に救おうと喚びかけ、はたらきかけておられる阿弥陀仏の心や救いのはたらきに触れているということなんですね。

子どもが「お母さん」と呼ぶ時の、その「お母さん」という言葉には、お母さんからこれまでもらった愛情や、ぎゅっと抱きしめてもらった温もりなどがこもっています。そのお母さんの愛情や温もりがこもった「お母さん」という言葉のように、私たちの聞く南無阿弥陀仏という名号もまた、阿弥陀仏の慈悲の心や温もりが込められているんですね。

「なもあみだぶつ」とか「なむあみだぶつ」とか「なまんだぶつ」「なまんだぶ」と、色々と発音されますが、全て同じ言葉です。

悩み苦しむものを、救わずにはおれない。悩み苦しみの中にある人が、阿弥陀仏の慈悲の心や温もりに触れた時に、「阿弥陀仏の救いにまかせなさい」というその喚び声は、自分に喚びかけられていたのだと気付かされることがあります。

私たちは、南無阿弥陀仏と当たり前のように聞いているかもしれませんが、その根本には、阿弥陀仏の「悩み苦しむものを救いたい」という願いがあり、その願いと功徳が込められたものが、南無阿弥陀仏の名号です。

それを知らされた方々が、「ああ、ありがたいことだ」と、南無阿弥陀仏と称え、世代を超えて、ご先祖などからずっと受け継がれ、今こうして私たちの耳に入ってきて、私たちの心に至り届いているんですね。

ただ、呪文のように南無阿弥陀仏と聞くのではなく、阿弥陀仏という仏様の慈悲の心や温もりをいただいていくことで、随分と聞こえ方が変わってくることではないでしょうか。それには、こうして仏法を聴聞する、仏法を聞き学んでいくことがとても大事になります。

◆正定業

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そうした阿弥陀仏の慈悲の心や温もりをいただいて、「ああ、ありがたいことだ」と、私たちの口からこぼれ出る南無阿弥陀仏のことを、称名や念仏と言います。

称名とは、阿弥陀仏の名を称えることであり、念仏とは、阿弥陀仏を念じ、南無阿弥陀仏と称えることです。この私たちの口からこぼれ出る南無阿弥陀仏の称名や念仏も、その根本は、阿弥陀仏の名号です。

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今お話していることを整理すると、南無阿弥陀仏には、大きく二つの意味があります。一つは名号、二つは称名念仏です。

名号とは、阿弥陀仏の側から私たちに向かっての方向のものです。そしてその名号とは、「阿弥陀仏の救いにまかせなさい」という、阿弥陀仏の勅命であり、私たちへの名のり、喚び声です。

そうした阿弥陀仏の名のりや喚び声を聞いて、また阿弥陀仏の慈悲の心や温もりに触れて、「ああ、ありがたいことだ」と、私たちの口からこぼれ出る南無阿弥陀仏のことを、称名や念仏と言います。

この時、称名念仏の南無阿弥陀仏とは、「阿弥陀仏の救いにおまかせします」という、阿弥陀仏への帰依や信順、信心を表す意味になります。帰依とは、阿弥陀仏の救いを依りどころとすること、信順とは、阿弥陀仏の救いを信じ、順うことです。

「阿弥陀仏の救いにまかせなさい」という阿弥陀仏の喚び声が、まず私たちに向かって届けられ、その名号の喚び声に呼応するように、私たちの口からこぼれ出るものが、「阿弥陀仏の救いにおまかせします」という称名念仏です。

ですから、私たちの口からこぼれ出る南無阿弥陀仏の称名念仏も、もとをたどれば阿弥陀仏の名号です。こうした図で、理解しやすくなったでしょうか。

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名号 南無阿弥陀仏とは、「悩み苦しむものを救いたい」という阿弥陀仏の名のりや喚び声であり、阿弥陀仏の願いや功徳が込められたものです。つまり、名号 南無阿弥陀仏とは、悩み苦しむものを救おうとする、阿弥陀仏の救いのはたらきそのものです。

そのことを、「正信偈」には、「本願名号正定業」という言葉で表されています。正定業とは、正(まさ)しく救いが定まる行業(行為)ということで、私たちが救われていくことが定まっていくはたらきのことです。

阿弥陀仏の救いのはたらきそのものである、名号 南無阿弥陀仏が、私たちの救いを定めていく行業であることを、「本願名号正定業」という言葉で示されているかと思います。

「悩み苦しむものを救いたい」という阿弥陀仏の本願の願いや、修行の功徳が込められた名号 南無阿弥陀仏によって、阿弥陀仏は私たちを救おうとはたらきかけてくださっている。南無阿弥陀仏と聞こえてきたということは、阿弥陀仏の慈悲の心や、救いの手の温もりに触れているということです。

その阿弥陀仏の救いのはたらきによって、私たちの救いが定まっていく。そうしたことを、「本願名号正定業」という言葉で表されているかと思います。

いかがだったでしょうか。今回は、「本願名号正定業」という言葉の意味について、味わっていきました。

ここからの四句は、仏教用語が多く出てきて、難しく感じるかもしれません。ですが、なるべく分かりやすくお話をしていきます。

動画を何度か繰り返しご覧いただいたり、同じような内容もまた出てきますので、一度で理解できなくても大丈夫です。「正信偈」を読み進めていきながら、徐々に味わいを深めてまいりましょう。私もご一緒に、学ばせていただきます。

次回も、続きの内容を味わっていきたいと思います。


合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生

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◇参照文献:
・『浄土真宗聖典』注釈版/浄土真宗本願寺派

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・『浄土真宗聖典』七祖篇 注釈版/浄土真宗本願寺派
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