ここでは、浄土真宗でよくおとなえされる「正信偈」(しょうしんげ)の内容について、できるだけ分かりやすく味わってまいります。題して、【正信偈を学ぶ】シリーズ、今回は第11回目です。
・仏教やお経を学んでみたいという方。
・人生や生き方について関心がある方。
・でも何から学べばよいか分からないという方。
・浄土真宗のお寺とご縁がある方。
そうした方にお勧めの内容です。
さて今回は、「正信偈」の「五劫思惟之摂受」(ごこうしゆいししょうじゅ)とある五劫思惟という言葉について、「五劫思惟の意味するところ」というテーマで考えてみたいと思います。
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◆正信偈の偈文(げもん)
ではまず、本文と書き下し文、そして意訳を見てみましょう。
【本文】
建立無上殊勝願 超発希有大弘誓
(こんりゅうむじょうしゅしょうがん ちょうほつけうだいぐぜい)
五劫思惟之摂受 重誓名声聞十方
(ごこうしゆいししょうじゅ じゅうせいみょうしょうもんじっぽう)
【書き下し文】
無上殊勝(むじょうしゅしょう)の願(がん)を建立(こんりゅう)し、希有(けう)の大弘誓(だいぐぜい)を超発(ちょうほつ)せり。
五劫(ごこう)これを思惟(しゆい)して摂受(しょうじゅ)す。
重ねて誓ふらくは、名声(みょうしょう)十方(じっぽう)に聞えんと。
【意訳】
後の阿弥陀仏である法蔵菩薩は、「悩み苦しむ全てのものを救う」という、この上なくすぐれた願いをたて、「救えなければ、仏とならない」という、たぐいまれな誓いをおこされました。
そして、五劫というとても長い時間をかけて思惟し、様々な仏の救済法の中から、粗悪なものを選び捨て、南無阿弥陀仏の意味を聞きひらいていくことによって救われていくという、すぐれた救済法を選び取り、阿弥陀仏という仏となられたのです。
『重誓偈』には、南無阿弥陀仏(必ず救う。私にまかせなさい)という阿弥陀仏の名のりを、全ての世界に響き渡らせると重ねて誓われています。
◆五劫という言葉の意味
さて今回は、「五劫思惟の意味するところ」について見ていきますが、まず五劫という言葉の意味について見てみましょう。
五劫の劫とは、サンスクリット語で「kalpa」(カルパ)というそうです。劫とは、極めて長い時間のことだそうです。どのくらい長いかというと、限りなく無限に近いほどの長さだと言われます。
『大智度論』(だいちどろん)という書物には、盤石劫(ばんじゃくこう)や、芥子劫(けしこう)などの譬えで、その時間の長さが表されています。
盤石劫というのは、40里四方の石を、100年に一度ずつ薄い衣で払って、その石が摩滅してもまだ一劫にも満たないという説明がなされています。40里というと、1里が約4Kmと言われますので、約160Km四方の石ということになりますね。もう石というより岩ですよね。
160Km四方の石と言われてもあまりピンとこないかもしれません。どのくらいの大きさの石なんでしょうか。160Km四方ですから、160Km×160Kmで、石の上部の表面積は25,600Km²となります。
これがどのくらいの広さかというと、東京都の面積は2,194Km²ですから、東京都の約11倍くらいの広さの石になります。関東全体の面積で32,420Km²ですから、関東の面積よりより少し小さいですが、やはり相当大きな石であることが分かります。
石の高さがどのくらいあるのかは分かりませんが、それほど大きな石ですから、それなりの高さはあるでしょうね。
そんな上部の表面積が、東京都の11倍以上もある石を、100年に一度、薄い衣で表面を払って、それでその石が全て摩滅して無くなっても一劫にもならない。劫とは、それほど限りなく無限に近いほど、極めて長い時間のことになります。
そもそも、それだけの大きな石を薄い衣で払えるのかとか、本当に摩滅するのかとか、思いますけれど、それだけ限りなく無限に近いような長さが、劫という時間の単位だということが、お分かりいただけたでしょうか。そしてここでは、五劫思惟といって五劫ですから、その五倍の長さになるわけです。
芥子劫(けしこう)というのも同じように、劫がとても長い時間を表していることのたとえとして出てきます。
ちなみに、劫という漢字は、例えば未来永劫という言葉に使われたり、億劫という言葉にも使われますね。未来永劫の劫とは、やはり長い時間を表す言葉です。
億劫とは、あまりに長い時間がかかり、やりきれないという意味に転じ、面倒という意味で使われるようになったそうですね。
◆阿弥陀仏の救いの完全性
さて、五劫という言葉がとても長い時間であるということは、お分かりいただけたかと思います。
「正信偈」では、「五劫思惟之摂受」(ごこうしゆいししょうじゅ)と出てきます。後の阿弥陀仏である法蔵菩薩は、五劫というとても長い時間をかけて思惟し、四十八願という四十八の願いを建てました。四十八願を建てるには、それほどの長い時間が必要だった。そういうことを表現するために、五劫という言葉がここに用いられています。
なぜ四十八願を建てるのに、五劫もかかったと表現されているかというと、一つは、生きとし生けるものを救うための完全な救済方法を選び取るためには、それほど長い時間が必要だったということです。
それは逆に言うと、阿弥陀仏の救いが完全なものであるということを表しています。生きとし生けるものを救うために、長い時間をかけて完全な救済方法を選び取ったということですね。
そして、阿弥陀仏の完全な救いについて説かれていることは、同時に我々に阿弥陀仏の救いにお任せして大丈夫なんですよという安心感も表されているかと思います。
例えば、自分が病気になったとします。そうすると、その専門医を探しませんか。目の病気なら、眼科に行きます。その中でも特殊な目の病気であれば、その目の病気の専門医を探します。大腸癌なら大腸癌の、椎間板ヘルニアなら椎間板ヘルニアのの専門医を探します。
それは、その専門医の方が、病気について長年学んでおられ、長年患者さんと関わり、手術や経過観察をおこなっておられる。色々な症例を見ている数も多いでしょう。料理人の方に、癌の手術をお願いするということはないわけです。病気の治療はお医者さんに、中でもその専門医に診ていただこうと思うわけですね。
阿弥陀仏を救いを他にたとえることは中々難しいですが、法蔵菩薩が五劫もの間思惟したというのは、それほど生きとし生けるものを救うために、長い時間をかけて完全な方法を選び取ろうとした。そうしたことが表されています。
世自在王仏という師に、二百一十億もの仏方の国土や、そこにおられる方々の善し悪しを見せていただいて、そこから善くないものは選び捨て、善いものだけを選び取り、法蔵菩薩は四十八願をお建てになった。
井の中の蛙ではなく、様々なものを見て、その中からふるいにふるいをかけて選び取った。五劫という果てしない時間をかけて、それを選び取った。それが四十八願である。そういうことを、この五劫という言葉で表現されているわけです。
それはつまり、阿弥陀仏の救いが完全なものであるということを表しています。生きとし生けるものを救うために、長い時間をかけて完全な救済方法を選び取ったということですね。そして、阿弥陀仏の完全な救いについて説かれていることは、同時に我々に阿弥陀仏の救いにお任せして大丈夫なんですよという安心感も表されているかと思います。
また、その四十八願、四十八の願いの根本は、十八番目の第十八願である。そうしたことを、前回も見てきました。
◆
いかがだったでしょうか。今回は、「正信偈」に「五劫思惟之摂受」(ごこうしゆいししょうじゅ)とある五劫思惟という言葉について、「五劫思惟の意味するところ」というテーマでお話させていただきました。
五劫とは、無限に近いような、とても長い時間のことを表しています。後の阿弥陀仏である法蔵菩薩は、五劫というとても長い時間をかけて思惟して、四十八願という四十八の願いを建てます。
四十八願を建てるには、それほどの長い時間、思惟しなければならなかった。それは逆に言うと、阿弥陀仏の救いが完全なものであるということを表しています。生きとし生けるものを救うために、長い時間をかけて完全な救済方法を選び取ったということですね。
そして、阿弥陀仏の完全な救いについて説かれていることは、同時に我々に阿弥陀仏の救いにお任せして大丈夫なんですよという安心感も表されているわけです。今回は、こうした内容について見てきました。
次回は、五劫思惟についてのもう一つの見方、五劫という長い時間をかけて思惟しなければ、救えるとは思えなかったほど、自分自身は重い罪や悪を抱えながら生きているのかもしれないということについて、見てみたいと思います。
【正信偈を学ぶ】
▼次回の内容
仏教講座_浄土真宗【正信偈を学ぶ】第12回_罪悪の自覚と阿弥陀仏の救い | 信行寺 福岡県糟屋郡にある浄土真宗本願寺派のお寺 (shingyoji.jp)
▼前回の内容
仏教講座_浄土真宗【正信偈を学ぶ】第10回_阿弥陀仏の四十八願と第十八願 | 信行寺 福岡県糟屋郡にある浄土真宗本願寺派のお寺 (shingyoji.jp)
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合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
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