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◆なぜ現代人は時間に余裕がないのか

なぜ現代人は時間に余裕がないのか。
今回は、そんな内容について取り上げ、皆様と共有させていただきたいと思います。
なぜ、こんな話をしようと思ったかというと、浄土真宗本願寺派の僧侶で、相愛大学の学長でもあられる釈徹宗先生がされていた、時間に関するお話がとても興味深かったからです。
釈先生は、時間を二つに分けて捉えていると言います。
一つは、「客観的時間」であり、これは「物理的時間」とも言えます。
もう一つは、「主観的時間」であり、これは「内面的時間」と言ってもよいでしょう。
時間を二つに分けるこの捉え方は、神学者のパウル・ティリッヒという方の考察だそうです。
釈先生は、そのパウル・ティリッヒの考察をもちだしながら、時間の話をされています。
さて、「客観的時間」とは、実際の時間のことです。
私たちがどう感じるかは関係なく、流れている物理的な時間のことです。
一方、「主観的時間」とは、自分が感じる内面的な時間のことです。
例えば、同じ10分という時間でも、テレビを見ているのはあっという間でも、正座をしている10分は長く感じませんか。
このように、物理的には同じ時間であっても、私たちはその時間を長くも短くも感じますよね。
また、ゆったりと時間を過ごしている人もいれば、時間に追われるように過ごしている人もいます。

このように、「主観的時間」は、人によって違い、状況や心持ちによっても変化するものです。
そして釈先生は、この「主観的時間」を延ばすことが、現代人にとっての大きなテーマだと言われています。
このテーマを別の言葉で言い換えれば、「時間に追われずに、心に余裕をもって過ごすにはどうすれば良いのか」と、言っても良いかもしれません。
現代は、様々な技術が進み、時間を有効活用できるようになりました。
昔は、東京と大阪の間を移動しようと思ったら、徒歩ですから、何日もかかったでしょうね。
しかし今なら、飛行機や新幹線で日帰りすらできます。
お風呂に入るのも、五右衛門風呂だったら、水を入れて、薪をくべて、沸かしてと、ずいぶん時間がかかったでしょうね。
それが今では、ボタン一つでお湯が沸きます。
ですので、現代人は一昔前の人よりも、物理的な時間には余裕があるはずです。
電気や照明もありますから、現代人は夜間の時間まで使えます。
しかし、実際はどうかというと、一昔前の人よりも、現代人のほうが忙しく、時間に余裕がない感じがしますよね。
しかも、時間に追われて、イライラしています。
「改めて考えてみれば、これはおかしなことではないでしょうか」と、釈先生は問いを投げかけられています。
「主観的時間」を延ばすこと。
それが、現代人のテーマであるということは、時間に追われるように日々を過ごしている現代人の一人として、私も実感するところです。皆様はどう感じるでしょうか。
◆主観的な時間が縮んでいる

では、なぜ現代人は時間に余裕がないのでしょうか。
それは、「主観的な時間が縮んでいるから」だと、釈先生は指摘されています。
「主観的な時間が縮んでいる」とは、どういうことでしょうか。
例えば、コンビニであれば、列に並んでから1分くらいで会計はできるだろうという時間感覚が、私たちにはありますよね。
しかしもし、コンビニの列に並んで、5分経っても会計が終わっていなければ、私たちはどう感じるでしょうか。
遅いなとイライラしたり、列の中にはどなる方も出てくるかもしれません。
人類が狩猟採集をしていた時代であれば、今日の食べ物が5分で手に入ったとしたら、ものすごく感動したでしょう。
しかし、現代人の私たちは、食べ物を買うために5分間列に並ぶのも難しいわけです。
これが、「主観的な時間が縮んでいる」ということでしょうね。

では次に、なぜ私たちの主観的な時間は縮んでいるのでしょうか。
釈先生は、それは「主観的な時間を縮ませるような装置が増加しているから」だと指摘されています。
例えばですが、コンビニやファーストフード、ネット通販やSNSなどのように、短時間で簡単にモノが手に入ったり、利用できるサービスが、この数十年で世の中にどんどん増加しています。
そうしたものを繰り返し利用することで、私たちの時間感覚はどんどん縮んでしまうのでしょう。
技術の進展によって、私たちは便利や快適や速さを享受しています。
それは大変ありがたいことなのですが、しかし便利や快適、速さが当たり前になりすぎると、そうではない状況に対して、許容や我慢ができないという副作用もあるのでしょうね。
だから、コンビニの列で5分待てないという事態が起こってきます。
そしてまた、便利や快適、速さが当たり前になると、それが良いことであるという価値観も当たり前になります。
「短時間で対応したり回答したりするのが、より良いモデルとなっている社会」であることも、私たちの主観的な時間が縮む要因となっていると、釈先生は指摘されています。
個人的にはゆっくり仕事をしようと思っても、上司や同僚、お客さんのことを考えると、ゆっくりはしづらいかもしれません。
社会的な価値観も、私たちの時間感覚に影響を及ぼすということです。

また、これは私の意見ですが、日本を含めた先進国が、経済合理性を偏重していることも、主観的な時間が縮む要因となっていると思います。
良い国かどうかをはかる指標として、先進国ではGDPが用いられていて、日本もそうですね。
GDPとは、分かりやすく言えば、特定の期間に国がどれだけ経済的な利益をあげたかという指標です。
このGDPが、良い国かどうかをはかる指標として使われていて、現代の日本社会も、基本的にはGDPを動力として駆動しています。
そして、このGDPという指標を、私たちに落とし込むとどうなるでしょうか。
それは、私たち一人ひとりが、限られた時間の中で、どれだけ生産性をあげられるか、利益をあげられるかということが求められるということです。
国が大事にしていることが経済合理性であり、その指標がGDPですから、私たちも1日にどれだけのことができるか、1時間にどれだけのことができるかという考え方が、知らず知らずの間に染みついてしまっています。
タイパ(タイムパフォーマンス/時間当たりの効率性を上げる)という言葉が、その典型です。
釈先生の指摘されている主観的な時間を縮ませるような装置が増加している背景には、経済合理性という考え方がはたらいていると私は思います。
経済合理性の考え方は、他の生物と比べて、人類の明らかな一つの特徴でもありますし、それによって私たちの生活も成り立っていますから、悪いと決めつけることはできません。
ただし、経済合理性だけを偏重したり、経済合理性だけが社会を動かす動力となれば、人々は生産性に捉われ、生産できない人が生きづらい社会になってしまいます。
経済合理性を偏重しすぎると、経済的に価値を生み出す人間が良い人間であり、そうでない人間は生きる価値がないという考え方にもなってくるからです。
人に迷惑をかけないことや、負担をかけないことが良いことだとする価値観の背景にも、こうした日本社会に根付いた経済合理性の考え方があると感じます。
◆主観的な時間を延ばすには

では、私たちはどうすれば主観的な時間を延ばすことができるのでしょうか。
釈先生は、「主観的な時間が縮んでいることをよく自覚して、主観的な時間を延ばす装置や方法に目を向けることが大事である」と言われています。
「主観的な時間を延ばす装置や方法」とは、どういうものがあるのでしょうか。
釈先生は、人類の主観的な時間を最も延ばす装置は、宗教儀礼であるとおっしゃっていました。
例えば、ご法事の場で、おじいちゃんやおばあちゃんなど、先人の生涯に思いをはせてみるのも良いかもしれません。
神社仏閣など、昔からそこに存在している場所に身を置いて、いつもとは違った時間の流れを感じてみるのも良いかもしれません。
個人的には、仏教に触れることも、主観的な時間を延ばすことに有効だと思います。
なぜなら、仏教に触れていると、世の中や自分に対する見方が変化するからです。
例えば、経済合理性で駆動している社会の様子に気付かされたり、経済合理性の価値観にどっぷりと浸かって生きてしまっている自分の姿に気付かされたりするからです。
それが、主観的な時間を延ばすことにもつながると思います。
他にも、伝統文化や自然に触れることも良いかもしれませんね。
またある方は、猫などの動物を眺めていると、人間とは全く違う時間の流れにいることに、はっとさせられると言われていました。
とにかく、私たちは主観的な時間が縮みやすい時代を生きているということを、まずは自覚すること。
そして、主観的な時間を延ばす装置や方法に目を向けること。
こうしたことが、時間に余裕をもって過ごすために、大事なことかもしれません。
◆
いかがだったでしょうか。
本日は、釈徹宗先生のお話を参考にして、「なぜ現代人は時間に余裕がないのか」ということについて、思ったことを共有させていただきました。
皆様はどんなことを感じられたでしょうか。
是非、ご感想などもお聞かせください。
合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
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