「仏教解説」では、仏教の考え方をできるだけ分かりやすく、ご紹介しています。仏教の考え方を通して、皆様の仕事や生活がより良いものとなったり、日々を安らかに穏やかに過ごすようなご縁となれば幸いです。
今回は、八正道の中の五つ目、正命(正しい生活)についてご紹介したいと思います。
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◆正命
八正道の五つ目の正命とは、正しい生活のことです。ここでの生活という言葉は、仕事とも生計とも訳されます。そういう場合は、正しい仕事とか、正しい生計という意味になります。
例えば、他者に危害を加えるような仕事はしないとか、欲にかられて必要以上に富を独占しないようにするというように、仕事や生計を正当なものにしていく。正命とは、もともとそういう意味があると言われます。
ただ、ここでの生活という言葉は、もう少し意味の広い言葉だとも言われます。仕事や生計という言葉は、対価をもらったり、生産活動をするというような、労働や職業という意味合いの言葉として捉えられがちです。ですが、ここの正命では、もう少し意味の広い言葉だそうです。
例えば、育児や家事は、我が家のことであれば賃金は発生しませんが、見方によれば仕事です。他にも、定年後で職業についていない方でも、日々様々な生きる営みをしています。学生さんでも、アルバイトなどの労働はしていないとしても、学生としての仕事や本文はありますね。
ですから、ここでの生活、仕事、生計という言葉は、労働や職業という意味だけでなく、もう少し意味が広く、日々の生活を成り立たせているものという意味合いがあると言われます。
仏教学の中村元先生は、生活という言葉を、生活法とも表現されています。
つまり正命の正しい生活とは、日々の生活の基準や指針となるような生き方、あり方までを含めた言葉かと思います。正命とは、正しい生き方、正しいあり方という意味まで含めた正しい生活ということですね。
そうすると、この正命というのは、どのような仕事をするのか、どのような生活をするのかという話だけではなくて、どのような生き方をするのか、どのようなあり方をするのかということまでも含めて考えるものとなります。
正しい生き方、正しいあり方というと、八正道全体を指すような言葉にもなりますが、この正命には、日々をどのように生き、人生がどのようにあるといいのかという問いに対する、仏教的な答えが示されているところとも言えます。
ご自身の生活、つまり日々や人生が、どのような生き方、あり方になっているだろうかと、チェックしていただくものとして、この正命を捉えていただくと、理解しやすいかと思います。
では、どのようなものが正命(正しい生活)だと示されているのでしょうか。
◆八正道の連関
正命(正しい生活)とは何かというと、これは八正道全体に説かれていることです。
八正道は、それぞれ別のことが説かれているのではなく、連関していますから、正命だけ特別なことが説かれているわけではありません。八正道で説かれいること全体が、正命(正しい生活)のあり方となってきます。
では、八正道にはどのようなことが説かれていたでしょうか。例えば、前々回ご紹介した正語(正しい言葉づかい)とは、どのようなものだったでしょうか。覚えていらっしゃいますでしょうか。
正語には、不妄語(嘘をつかない)、不両舌(仲違いをさせるようなことを言わない)、不悪口(ののしったり、荒々しい言葉を使わない)、不綺語(中身のない言葉や飾った言葉を使わない)ことなどが説かれていました。
こうした正語という正しい言葉づかいを心がけていくことが、そのまま正命の正しい生活のあり方につながってくるということです。
他にも、前回の正業(正しい行い)のところには、どんなことが説かれていたでしょうか。
正業には、不殺生(生き物を殺さない)、不偸盗(盗みをしない)、不邪婬(よこしまな性の交わりをしない)、不妄語(嘘をつかない)、不飲酒(お酒を飲まないことから転じて、お酒を飲み過ぎない)ことなどが説かれていました。
これらの正業という正しい行いを心がけていくことも、そのまま正命の正しい生活のあり方につながってきます。
今あげたのは八正道の一部ですが、このように八正道全体が連関していて、八正道で説かれいること全体が、正命(正しい生活)のあり方となってきます。
ちなみに、正語、正業、正命の三つは、八正道の中でも戒という仏教徒の行動規範について説かれているところと言われ、特に関連性があります。
そして、これまでご紹介した、正見、正思惟という物事の見方や考え方といった智慧に該当する部分も連関していますし、また今後ご紹介する正精進、正念、正定という禅定と言われる心の安定に該当する部分も、互いに連関しています。
これら八正道全体が、私たちの日々の生き方やあり方の基準や指針となり、正しい生活につながってくる。そういうことが言えようかと思います。
正命(正しい生活)とは、八正道に説かれてきた一つひとつのことを心がけながら、自分はそれができているだろうか、それに適った生き方やあり方になっているだろうかと振り返りながら生活することとも言えます。
私たちの生活の中には、仕事や家庭生活なども含まれますから、そうした日々の生活を振り返る基準や指針の一つとして、八正道を捉えていただくと、より身近なものに感じていただけるかと思います。
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いかがだったでしょうか。今回は、八正道の正命(正しい生活)について、ご紹介しました。
先ほど挙げた、正語や正業などを心がけて生活してみると、殺生をしないことや、荒々しい言葉を使わないことなど、その一つでさえ難しいなと思ったりもします。
ただ、八正道といった基準や指針があることで、自分の日々の生活をチェックすることができます。
八正道などの仏法は、心の鏡とも、人生の灯火とも言われます。仏法は、2500年の間、多くの人にとって、自分が日々どういう生き方をしているのかを見つめる鏡となり、迷えるこの人生を、どの方向に進んでいったらよいのかを示す灯火となってきたんですね。
そのように、身近に仏法を感じていただき、日々生きる上での参考にしていただければと思います。また次回以降も、八正道の続きをご紹介させていただきます。
合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
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