「仏教解説」では、仏教の考え方をできるだけ分かりやすく、ご紹介しています。仏教の考え方を通して、皆様の仕事や生活がより良いものとなったり、日々を安らかに穏やかに過ごすようなご縁となれば幸いです。
今回は、八正道の四つ目、正業(正しい行い)について見ていきます。
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◆正業
八正道の四つ目の正業とは、正しい行いのことです。正しい行いとは、どういう種類があるかというと、五戒があげられています。
五戒とは、仏教徒が守る五種の戒めです。ですので、ここでは正業(正しい行い)として、五戒をご紹介します。
◆不殺生戒
五戒の一つ目は、不殺生戒です。不殺生戒とは、生き物を殺さないということです。
考えてみれば、いのちをいただかずに過ごす日はないほど、私たちは、毎日多くのいのちをいただきながら過ごしています。
私は先日、しらす丼をいただきましたが、どんぶりの中をじっくりと見てみると、当然ながらそこには何十匹ものしらすがいて、しかも一匹一匹が、目と口を開けてこちらを見ているように感じて、いのちをいただいていることをまざまざと思いました。
本来であれば、生き物を殺さない、不殺生の生き方が良いに決まっています。しかし、現代の日本社会で生活していれば、いのちをいただかずに毎日生きていけるかというと、難しいものがあります。
ですからせめて、殺生に無関心や無感覚で生きるのではなく、いのちをいただいていることを思いながら「いただきます」と言ったり、虫などの生き物をできるだけ殺さないようにと配慮する。そうした心がけを日々することの大切さを、不殺生戒から思います。
◆不偸盗戒
五戒の二つ目は、不偸盗(ちゅうとう)戒です。不偸盗戒とは、盗みをしないことです。
盗みを良いこととしたら、安心して生きていける社会はできません。もし盗みが良いこととされていたら、常に奪われるのではないかという恐怖や不安、猜疑心がつのるでしょうし、またどこから奪おうか、どのように奪おうかということを考えてしまうでしょう。
奪う力やずる賢さが、生きる上で重要な能力として評価される。そんな社会となってしまいます。そうした社会では、力弱きものが強きものから奪われ、真面目にコツコツ生きていこうという思いも育まれません。
歴史を見てみると、肥沃な土地や資源、資産などをめぐり、だまし合い、奪い合ってきた人類の歴史もあります。そしてそれは今も続いています。そうした欲や生存本能、怒り、憎しみが充満した、奪い合いの生き方をしてしまうのも人間の一面です。
しかし、そうした生き方を良しとしない面も人間にはあって、欲や怒りや憎しみが暴走しないようなルールづくりをおこなってきました。その一つが、盗みを良しとしないことでしょう。
より多くの人が安心して生きていける社会の基本として、盗みを良しとしないことは、重要なことだと思います。そして、そうした盗みのない日々があることが、私たちが安心して幸せに生きることにもつながってきます。
◆不邪婬戒
五戒の三つめは、不邪婬(じゃいん)戒です。不邪婬戒とは、よこしまな性の交わりをしないことです。
出家仏教では、そもそも性の交わりをしないことが、修行においての基本的な考え方かと思います。さとりを目指す中で、欲と対峙する時の一つの課題が、性の交わりへの欲求です。
出家ではなく、社会生活を送る人にとっては、愛する人と触れ合いを持つことは自然の成り行きですね。そうしたことがないと、家族生活もありませんし、人間も絶滅するでしょう。ですから、社会生活を送る人にとっては、この不邪婬戒とは、不倫をしないことと言い換えて言われます。
不倫が良くないとされるのは、そこに傷付く人が出るからでしょうね。ただ不倫の定義は、国や時代によってもまちまちですから、文化や価値観によってかなり左右される考え方かと思います。
◆不妄語戒
五戒の四つ目は、不妄語戒です。不妄語戒とは、嘘をつかないことです。
これは、前回の正語(正しい言葉づかい)のところでお話しましたので、今回は省略します。
◆不飲酒戒
五戒の五つ目は、不飲酒(おんじゅ)戒です。「飲酒」と書いて、「おんじゅ」と読みます。不飲酒戒とは、お酒を飲まないことです。
これも、社会生活を送る人にとって、お酒を飲むことは珍しいことではありませんから、お酒を飲みすぎないことと言い換えて言われます。お酒を飲んでもいいけれども、飲みすぎないように、飲まれないように心がけるということです。
過度なストレスや依存から、酒浸りになるということもありますが、お酒で物事が解決するわけではありません。ストレスを感じる時は、お酒を飲むよりも、自然の中で運動をしたり、美味しいものを食べて、よく寝るといった健康的なアプローチのほうが良いでしょうね。
◆戒に守られる
ここまで、五戒について、ご紹介してきました。八正道の正業(正しい行い)として五戒があげられることがあるので、今回は五戒について取り上げました。
五戒をはじめ、八正道を心がけ、実践することが、幸せに生きることにつながるというのが仏教の基本的な考え方です。戒というと、守らないといけないものとか、縛られるとか、窮屈なものというイメージがあるかもしれません。
しかし、タイで仏道を学ばれたプラユキ・ナラテボーさんのお話から教えていただいたことは、戒を守るという考え方もありますが、戒に守られるという考え方もできるということです。
仏教的な考え方を知らなかったり、考え方のトレーニングをしていなければ、私たちは、欲などの煩悩にコントロールされて、衝動的に行動してしまう生き方をしてしまいます。
欲しいと思ったものに、反射的に手を出したり、嫌いなものは、反射的に遠ざけようとする。批判されれば、反射的に怒ってしまう。そうした煩悩にコントロールされたあり方は、実は自由ではないんですね。自分が考えて行動しているようで、煩悩によって動かされている状態です。
戒とは、煩悩にコントロールされた状態から自由になろうとするものです。そして、戒によって、心身や生活が整えられてくるものです。
ですから戒とは、守らなければならないものとか、不自由なものというよりは、戒に守られていると感じたり、自由を感じることのほうが多くなってくるんですね。戒を、そうした人生をポジティブに変えていくような前向きなものとして考えると、イメージも変わるのではないでしょうか。
◆
いかがだったでしょうか。
今回は、八正道の四つ目の正業(正しい行い)について、五戒を取りあげ紹介しました。
合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
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