【仏教解説】のコーナーでは、仏教に関するテーマを一つ取り上げて、できるだけ分かりやすくご紹介しています。仏教やお寺を身近に感じていただいたり、日々を安らかに、穏やかに過ごすようなご縁となれば幸いです。

今回は、苦しみを和らげる仏教の考え方である四聖諦(ししょうたい)について、ご紹介したいと思います。

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◆四聖諦

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仏教では、苦しみを和らげる考え方、実践法として、四聖諦が説かれています。四聖諦(四諦)とは、仏教が説く四つの真理のことです。諦とは真理という意味です。真理とは、正しい道理という意味になります。

その四つの真理とは、苦諦(くたい)、集諦(じったい)、滅諦(めったい)、道諦(どうたい)です。それぞれの頭文字をとって、苦集滅道(くじゅうめつどう)とも言われます。

この四聖諦は、初期の仏教経典にも見られ、お釈迦様(ブッダ)が、初転法輪(しょてんぼうりん)という、さとりをひらいた後の最初の説法の時に説かれた内容の一つではないかと言われています。

では、四聖諦の四つについて、見てみましょう。今回は一つ目の苦諦についてご紹介します。

◆苦諦

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四聖諦の一つ目は、苦諦(くたい)です。苦諦とは、前回ご紹介した一切皆苦と同じような意味の言葉です。

「全てのものは苦である」という真理であり、「人間の生存は苦である」という真理のことを言います。

そして、仏教では本質的には、苦とは「思い通りにならないこと」であるとされます。

我々は、こうあってほしいという思いをもちながら、思い通りにならない現実に苦しみます。ですから苦しみとは、本質的には思い通りにならないこととされています。

この苦諦では、「人生には思い通りにならないことが多くある」という事実を事実として、明らかに見ることが大事だということが示されているかと思います。

我々の人生は、この世に生まれた時に始まりますが、考えてみればその人生の始まりから、自分の思い通りになっているわけではありません。生まれた場所や時代、人間として生まれたことなど、その偶然性に我々の人生は大きく影響をされ、規定されています。

皆様、突然ですが、チンアナゴはご存知でしょうか。水族館などで見たことがある方もおられるかと思います。

チンアナゴを見たことがある方は、その習性をご存知かと思いますが、海底の砂から少し顔と胴体を出したり、ひっこめたりして生きています。私は、チンアナゴを見るたびに、とても不思議な気持ちになるんですね。

どういう気持ちかというと、遺伝子の影響力の強さを感じるんですね。

砂から出て泳げばいいのですが、そうはしません。じっと見ていても、砂に引っ込んだり、少し出たり、ずっとそうしています。

聞いたところによると、チンアナゴは結構臆病で、敵から身を守るために、砂から少し顔や胴体を出して、周りを観察しているそうです。敵が来れば、砂の中に全部身を隠してしまうそうですね。そして、餌になるものが近くに来れば、身体を伸ばして食べるそうです。

チンアナゴの雑学はこれくらいにして、何が言いたかったかというと、我々ももしチンアナゴに生まれていたら、同じ行動をとっていると思うんですね。海底の砂に出たり入ったりしながら、過ごしていると思います。

我々は、たまたま人間に生まれたから、社会の中で生き、色々考えるわけですね。

このように、生まれること一つとっても、生まれた場所や時代、人間として生まれたことなど、その偶然性に我々の人生は大きく影響され、規定されていると言えます。

自分の思い通りに生まれてきたわけではないんですね。そしてまた、亡くなる瞬間も自分の思い通りにはいきません。

健康なまま、もう充分生き切ったと思うタイミングで亡くなりたいものですが、中々そうもいかないですね。

健康寿命と実際の寿命では、日本人で平均10歳くらいの差があると言います。寝たきりの状態で、数年間、十数年間、過ごして亡くなることもあります。生も死も、中々自分の思い通りにはなりません。

しかしひょっとすると、ある程度人生が思い通りになっていると思う瞬間も、我々にはあるかもしれません。

ただそれは、現代の日本という資源や食料事情、医療体制などのインフラが非常に整った時代を生きているからそう思うのかもしれません。それも震災や病気の蔓延、戦争などの有事になれば、状況が全く変わることでしょう。

思い通りにならないことが多いということを事実として認識しておくと、穏やかに平和で暮らせている時に、そのことが当たり前ではなく、感謝の気持ちがわいてくるように思います。

また、思い通りになっていると思えている時は、ある程度若かったり、健康だったり、お金があったりという条件つきの場合もありますね。

それが当たり前だと思えば、若さや健康にありがたみを感じるよりは、逆に現状への不満足の気持ちのほうが強くなるかもしれません。

また我々は、思い通りにすることが幸せであるとも思いがちです。思い通りになれば、心地よい感情がわきますからね。

しかし、自分の思い通りになることばかりを望むということは、自分勝手に、自分中心に生きるということです。そうした人は、周囲の人が振り回されたり、傷付けられたりして、苦しい思いをしていることが多いものです。その究極的なあり方が、独裁者でしょう。

自利利他というように、自他の幸せを願っていくことが大切です。

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ここまでの話をまとめると、我々は「人生は思い通りになる」と考えたり、「思い通りにすることが幸せだ」と誤認してしまうことがあります。

そこで、この苦諦では、「人生には思い通りにならないことが多くある」という事実を事実として、明らかに見ることが大事だということが示されているかと思います。

思い通りにならないというと、ネガティブにも聞こえますが、そうではなく、まず事実を事実として見ることの大事さが示されています。

思い通りにならないことが多いということを事実として認識しておくと、現状が当たり前ではなく、感謝の気持ちがわいてくるように思います。

四聖諦の諦、苦諦の諦とは、真理という意味だと申しました。真理とは、正しい道理ということです。

物事を正しく見ないと、苦しみは増幅されていきます。ですから、苦しみについて正しく見ることの大事さが、苦諦では説かれているわけですね。

そして、その苦しみの内容として、四苦八苦などが説かれます。四苦八苦については、前回お話致しました。

いかがだったでしょうか。

今回は、苦しみを和らげる仏教の考え方、実践法として、四聖諦(ししょうたい)の中の苦諦について、ご紹介いたしました。

続きは次回ご紹介させていただこうと思います。

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合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生

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▼前回の記事

【仏教解説】第12回_一切皆苦(全てのものは苦しみである) | 信行寺 福岡県糟屋郡にある浄土真宗本願寺派のお寺 (shingyoji.jp)

 

◇参照文献:
・『浄土真宗辞典』/浄土真宗本願寺派総合研究所
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・『望月仏教大辞典』/世界聖典刊行協会
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・『岩波仏教辞典』第二版/中村元他
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・『ブッダの真理のことば 感興のことば』/中村元 訳
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・『ブッダ伝』/中村元
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