◆自分に自信がもてない
YoutubeやSNSなど、インターネットでの配信や投稿をおこなっていると、様々な方がご自身の思いを聞かせてくださいます。
その中で、このような悩みを抱えている方が多いことに気付かされます。
「自分に自信がもてない」
「自分を認めてあげられない」
「人から言われたことを気にしてしまう」
「人と比較して苦しくなってしまう」
「自分には価値がないと思ってしまう」
今、こうした悩みを抱える方が多いと言われますが、私も実際にそうした声を伺います。
自分に自信をもてず、自分を認めてあげられないとき、どうしたら良いでしょうか。
また、周囲の人がそういう思いを抱いているとき、どうすれば良いのでしょうか。
▼動画でもご覧いただけます。
◆暴言は災害と同じ

ご存知の方も多いと思いますが、20代の歌手でアーティストの「ちゃんみな」さんという方がおられます。
彼女の言動や歌は、多くの人を励まし、勇気づけています。
先日、NHKの『クローズアップ現代』で、ちゃんみなさんの特集が放送されていました。
ちゃんみなさんは幼い頃からステージに立ち、高校生で歌手デビューしました。
しかし、見た目に対する誹謗中傷を受け続けてきたといいます。
彼女の歌の歌詞にもあるように、「醜いブスが歌ってんじゃないよ」といった言葉を浴びせられることもあったそうです。
自分の音楽ではなく、見た目ばかりに注目されることに、ちゃんみなさんは強い違和感を抱いたといいます。
また、ちゃんみなさんの母親は韓国の方で、日本で飲食店を営んでいました。
ある日、その大好きなお母さんが、酔ったサラリーマンのお客から灰皿を投げつけられ、暴言を浴びせられたそうです。
「死ね」
「今すぐに帰れ国へ」
「マジで何してんのここで」
その暴言や光景を目の当たりにし、ちゃんみなさんは子どもながらに深い傷を負ったといいます。
長い間、その出来事を人に話すのも怖かったそうです。
「どうして人に話すことを怖いと感じたのでしょうか」と番組で問われると、彼女はこう答えていました。
「単純にすごく傷ついたんだと思います。みんな同じ人間なのに、暴言を吐いていい理由がなさすぎて、少しも共感ができなかったんだと思う。本当に災害と同じだったんです」
「暴言は災害と同じ」という彼女の言葉が、とても印象に残りました。
◆誰もが自分を肯定できる社会へ
ちゃんみなさんは、偏見や誹謗中傷に対して異をとなえ、強く反論しています。
それは、彼女自身が傷ついてきただけでなく、周囲の人もまた、心ない言葉に苦しみ、時には命を落とすことさえあったからだそうです。
誰もが自分を肯定できる社会にするため、偏見や差別に立ち向かう彼女の歌や言動は、多くの人を励まし、勇気づけています。
ちゃんみなさんの音楽に共感する人たちの中には、「自分に自信がもてない」という悩みを抱えている方も多いと、番組では取り上げられていました。
ある女子高校生は、SNSの「いいね」の数やコメントを気にするあまり、自信をなくし、投稿すらできなくなったといいます。
しかし、ちゃんみなさんの言葉や音楽に触れる中で、少しずつ「嫌なことは嫌」と言えるようになり、自分を大切に思えるようになったそうです。
また、別の番組では、「美人」というちゃんみなさんの曲に救われた10代の方の手紙が紹介されていました。
「私は同級生にブスと言われ続け、高校に上がる前の春休みに二重整形しました。自分が嫌いで、どうにかみんなが思う可愛いに近づけようとしていました。そんな時に「美人」を聴いて、自分の美学を大切にすること、自分を認めてあげることの大切さを強く感じました」
このような内容の手紙でした。
言いたいけれど言えない。声をあげたいけれどあげられない。
そんな思いをちゃんみなさんが代弁してくれているように感じて、多くの方が勇気づけられていると感じました。
「何が美しいかは自分で決める」
「私は美しい。私たちは美しい」
そうしたちゃんみなさんの言葉や姿勢に、多くの方が「自分は自分でいいんだ」「自分を認めてあげよう」と励まされているように感じました。
◆心の依りどころ

人は「心の依りどころ」があることで、それを支えに生きていくことができます。
浄土真宗においては、「阿弥陀仏の存在」や「お念仏の教え」が「心の依りどころ」となってきました。
「あなたは尊くて大切な存在です。だからあなたもあなた自身のことを大切にして生きてほしいのです」
「あなたが悲しい時には私も悲しい。あなたが嬉しい時には私も嬉しい」
そうした仏様の心に触れる時、温もりや安心を感じることがあります。
時代を越え、国を越えて、「阿弥陀仏の存在」が、多くの人の「心の依りどころ」となってきました。
それは、私たち人類にとって、「自分のことを大切に思ってくれる存在がいる」ということが、生きていく上で支えになるからでしょうね。
また、お念仏の教えが記されている『仏説阿弥陀経』には、このような一節があります。
「青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光」
(しょうしきしょうこう おうしきおうこう しゃくしきしゃっこう びゃくしきびゃっこう)
「阿弥陀仏の極楽浄土では、青い華は青い光を放ち、黄色い華は黄色い光を、赤い華は赤い光を、白い華は白い光を放っている」と説かれています。
これは、それぞれの華が、互いに比べ合うことなく、いきいきと輝くように咲いている様子を表しています。
私はこの一節を味わう時に、幼稚園や保育園の園庭で、目を輝かせて思いきり遊んでいる子どもたちの姿が思い浮かびます。
こうしたお経の描写から、私たちは「誰かと比べなくても良い」ことや、「誰もが本来は輝く尊い存在である」ことを教えられることがあります。
ちゃんみなさんの歌や言葉にも、同じようなメッセージがあります。
「人からどう思われるかではなく、自分がどう思うかを大切にしてほしい」
「自分が自分に対して中指を立てないでほしい」
彼女のこうした言葉が、多くの人を励まし、勇気づけているのだと感じました。
◆御同朋・御同行

こうして考えていくと、私たちが「自分は自分で良い」と思える状態でいられるには、「依りどころ」となるものがあることが、とても重要な要素のように思われます。
社会学者の宮台真司さんは、「ホームベース」をもつことの重要性を語っています。
「ホームベース」とは、「感情的な安全を保障する場所」のことであり、「安心していられる場所」や「帰れると思える場所」のことだそうです。
そうした「ホームベース」があれば、職場や学校で嫌なことがあったり、言われたりしても、「自分には理解してくれる人がいる」「自分には帰れる場所がある」と思って、受け流せるかもしれません。
そうした「ホームベース」とは、まさしく「心の依りどころ」と言って良いでしょうね。
「ホームベース」は家庭でも良いし、友人や恋人、趣味のサークルなど、様々で良いそうです。
神仏の存在が、「ホームベース」となる方もおられるでしょう。
そこでは、お互いの存在を大切にし、信頼やつながりが感じられる。
本音で語り合うことができ、自然体でいられる。
困った時は助けてくれると思える。
そうした「ホームベース」があることで、自分が一人の人間として大切にされていることを感じ、心が満たされることがあります。
その中で、自分自身のことを認めてあげ、大切できるように思います。
そして、自分のことを大切にできた時に、「私がしてもらったように、他の人のことも大切にしよう」と思えるのではないでしょうか。
仏教では、そうした「ホームベース」となるような仲間のことを「サンガ」と言います。
浄土真宗では、「同朋」(どうぼう)「同行」(どうぎょう)と言っています。

「同朋」「同行」とは、お念仏の教えを喜び、同じ道を歩む仲間のことです。
そこでは、誰もが同じ「仏の子」であるという考え方のもと、世代や性別や立場を超えて、互いに尊び合う精神が育まれてきました。
残念ながら、身分制が確立した江戸時代などには、そうした精神が薄れ、仲間内でも差別をした歴史があります。
ただ、人間関係が希薄化した現代において、互いの思いを語り合えたり、互いに尊び合う場があることが、とても貴重で、必要とされているのだと思います。
お寺にいる私としては、そうした場を皆さんと一緒につくれると良いと思い、場づくりをしています。
お寺でできる友達、「寺友」(てらとも)をつくることもお勧めです。
さて、最初の問いに戻りましょう。
自分に自信をもてず、自分を認めてあげられないとき、どうしたら良いでしょうか。
また、周囲の人がそういう思いを抱いているとき、どうすれば良いのでしょうか。
今回の話をまとめると、「心の依りどころ」となるような存在や考え方、場所や仲間をもつことが、大事ではないかと思います。
そして同時に、「はたして家庭が依りどころとなっているだろうか」「この人とだったら話しやすいと思えるような関係性をお互いにつくれているだろうか」といったことも考えさせられます。
皆様はどのように感じられるでしょうか。
▼「私が社会を変える」Z世代を魅了する歌手“ちゃんみな”の闘い/NHKクローズアップ現代
▼時代が共感…ちゃんみなメッセージの原点/報道ステーション特集(2022年1月14日)
▼宮台真司。なぜ「幸せ」になれない?現代社会を考える/NewsPicks
合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
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南無阿弥陀仏