今日は、「運動がストレスや不安を和らげ、心を健康にする」ということについて、皆様と一緒に考えてみたいと思います。
日常生活において、私たちはストレスを感じたり、悩みや不安を抱くこともありますよね。
その時に、仏教や浄土真宗の文脈でいえば、例えば仏様に手を合わせて心が安らいだり、また仏法(仏教)の考え方に触れて気持ちが楽になることもあるかと思います。
しかし、私たちの心の状態は、脳の状態とも密接に関わっています。
「精神疾患とは、脳が機能不全の状態である」ことが、近年知られてきています。
精神疾患とまではいかなくても、ストレスや悩みや不安を感じやすい状態は、脳があまりよくない状態であると言えようかと思います。
▼こちらの内容は動画でもご覧いただけます。
また、近年の調査では、若年層を中心に心の不調を訴える方が増えています。
なぜ、心の不調を訴える方が増えているのでしょうか。
その理由はいくつかあるかと思いますが、中でも大きな要因として考えられるのは、「現代人は脳にとってよくない生活習慣を送っている」ことではないでしょうか。
例えば、睡眠や運動や食事が、心身の健康に影響を与えることは、誰しもが理解をしていることでしょう。
しかし現代では、気を付けていないと、睡眠や運動が慢性的に不足し、食生活が乱れやすい環境にあります。
「現代人を悩ませる心身の不調は、睡眠や運動や食事などの生活習慣の乱れに起因している」のではないか。
逆に言うと、「睡眠や運動や食事などの生活習慣を見直すことで、多くの人の心身の不調が改善する」のではないか。
私も含めて、現代人の生活を眺めてみると、そんなことを思います。
そこで今回は特に、運動について取り上げて、ご一緒に考えてみたいと思います。
参考にするのは、『運動脳』という本です。
この本は、スウェーデン人のアンデシュ・ハンセンさんという方が書かれたものです。
彼は、精神科医で、医学研究などもおこなっておられます。
『運動脳』は、世界中でベストセラーとなっている本ですので、ご存知の方もおられるかもしれません。
この本には、「運動がいかに脳に良いか」ということが、研究などの科学的データに基づいて記されています。
とても信憑性が高く、私たちが日々を健康に過ごすために有用な情報が記されています。
▼『運動脳』/アンデシュ・ハンセン
今回は、『運動脳』という本の内容によって、「なぜ運動が大切なのか」「運動がどのように良いのか」「どのような運動をすると良いのか」ということを、簡潔にご紹介したいと思います。
今回は仏教の話ではありませんが、仏教が取り扱う心の面を考える上でもとても有用な情報だと思いますので、共有をさせていただこうと思います。
◆なぜ運動が大切なのか
まず、「なぜ運動が大切なのか」について、『運動脳』の内容をみてみましょう。
私たち人類は、誕生してから何百万年もの長い間、狩猟採集の生活を送っていました。
そして、農耕生活を送るようになったのが、おおよそ1万年前です。
そして、200年程前に工業化をし、近年にはデジタル化した社会を人類は生きています。
人類が誕生してから現代までを、1日24時間で表すとします。
すると、人類の歴史の中で、人類が狩猟採集の生活を送っていた期間は、0時から夜の11時40分までだそうです。
人類は誕生してから、98%以上の期間、狩猟採集の生活を送っていたことになります。
つまり、「生物学的に言えば、私たちの脳と身体は今もサバンナにいる」と、本には記されていました。
信じがたいことかもしれませんが、人類を生物学的な点からみれば、急激な社会の変化に対して、脳や身体の変化が追いついていないのですね。
そして、それによって様々な不調が起きているそうです。
社会の変化によってもたらされた、私たちの生活習慣の大きな変化が、運動不足です。
狩猟採集の生活を送っていた頃と比べて、現代人は身体を動かすことが減り、運動量はおおよそ半分以下になっているそうです。
そして、運動不足によって、心身のあらゆる不調が起きていると、『運動脳』では結論づけられていました。
◆運動がどのように良いのか
次に、「運動がどのように良いのか」についてみてみましょう。
運動の効果として『運動脳』に挙げられているのは、まずストレスや不安などが減少し、気分が晴れやかになり、幸福感が増すということです。
本には、それらの仕組みについて詳しく記されています。
例えば、運動によって、ストレス反応を抑える海馬や前頭葉が強化され、ストレスや不安が軽減するそうです。
また、運動によって、BDNFという脳内物質が増え、気分が晴れやかになり、うつ症状が改善するそうです。
脳では複雑なことが様々に行われており、本には詳しく記されていますが、ここでは簡単な紹介にとどめておきます。
ご関心がある方は、ぜひ本をご覧になってみてください。
とにかく、運動をすることで、ストレスや不安などが減少し、気分が晴れやかになり、幸福感が増すということが研究で明らかになってきているそうです。
ですので、ストレスや悩みや不安を抱えていたり、うつ症状などがある方は、運動をすることを習慣化するとよいかと思います。
すぐには効果はでないかもしれませんが、運動の効果は確実にあるとのことでした。
また、強いストレスや悩みなどがなくても、運動は心の健康にとって良いものです。
運動は、どなたにとっても良いということが言えようかと思います。
ちなみに、運動によるそれ以外の効果も紹介されています。
私たちの脳の大きさは、25歳頃がピークで、毎年0.5%から1%ずつ萎縮していくそうです。
そう聞くと、ぞっとしますね。
年齢とともに記憶力が衰えていくのは、脳の海馬が小さくなっていることが要因だそうです。
しかし、朗報があります。
運動をすると、脳の萎縮が止まるだけでなく、大きくなるのだそうです。
運動をすることで、脳が若返り、記憶力が向上するそうなのですね。
また、毎日意識的に歩くと、認知症の発症率が40%減少するとの研究結果もあるそうです。
運動は、ストレスや不安などを緩和するだけでなく、記憶力が向上したり、脳を若い状態に保つ効果があるのですね。
ご年配の方にとっても、運動は良いということが言えます。
また、お子さんの学力を伸ばすのも、運動が良いそうです。
お子さんを対象にした調査によれば、運動によって、読み・書き・計算といった、あらゆる学力が向上したそうです。
運動によって海馬が大きくなるなど、脳全体の機能が向上し、特別な学習指導がなくても、算数や国語、英語などで成績が向上したそうです。
勉強することも大事かと思いますが、一定の時間勉強したら、身体を動かす時間を取ることも、非常に大事なようです。
また、運動によって、精神状態が安定したり、ADHDの症状も緩和され、集中力が改善される効果も報告されているとのことでした。
◆どのような運動をすると良いのか
最後に、「どのような運動をすると良いのか」についてもみておきましょう。
脳に最も効果的な運動とはどのようなもので、どのくらいの量の運動をすると良いのでしょうか。
明確な答えは出ていないそうですが、実験によってある程度の目安が出ているそうです。
まず、脳を最高な状態を保つには、ランニングを週に3回、45分以上おこなうことが望ましいそうです。
ポイントは、心拍数を上げることだそうです。
心拍数を上げても問題ない方はですが、ランニングなどの有酸素運動が、脳に最も効果的だとのことです。
自転車や水泳なども良いそうです。
ご年配の方でしたら、ランニングは難しい方もおられますよね。
そういう方は、ウォーキングも良いそうです。
毎日か、少なくとも週に5回、20分から30分程度歩くと良いようです。
いきなり、長時間歩くのは難しい方もおられるかと思います。
その場合は、身体を少しでも動かすことから初めて、歩く時間や距離を徐々に長くされてみてはいかがでしょうか。
転倒や怪我などには、十分注意していただければと思います。
お子さんの場合ですが、息切れするような心拍数が上がる運動が効果的とのことです。
内容は、どのようなものでもよく、かけっこやボール遊び、縄跳びなど、好きなものを選んで良いと書かれていました。
お子さんにとっては、楽しく、思いっきり身体を動かして遊ぶことが大事なのでしょうね。
ちなみに、どの年代の方でも、脳が変化するのは時間がかかるそうです。
しかし、運動の効果は確実にあり、根気強く、あきらめずに続けることが大事とのことでした。
いかに運動を続けられるかということがポイントになるかもしれません。
◆
いかがだったでしょうか。
今回は、『運動脳』という本の内容を紹介し、「運動がストレスや不安を和らげ、心を健康にする」というテーマでお話をさせていただきました。
どのようなことをお感じになられたでしょうか。
ご感想などもお聞かせください。
また、本にはもっと詳細に書かれていますので、ご関心がある方はぜひ、『運動脳』をお読みになってみてください。
合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
▼『運動脳』/アンデシュ・ハンセン
▼一口法話シリーズ
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南無阿弥陀仏