【一口法話】慈悲_喜びや悲しみを分かち合う

信行寺で開催している「朝参り」では、皆様の心が少しでも安らぐようなご縁となればと思い、一口法話をしております。今回は、慈悲(喜びや悲しみを分かち合う)というテーマで、お話させていただきました。

文章と動画でご覧いただけるようにしましたので、ご関心がある方は、どうぞご覧くださいませ。

▼動画でもご覧いただけます

皆様、改めてようこそ、信行寺の朝参りにお参りくださいました。朝参りでは、短い法話をさせていただいております。

前回、前々回と、「私たちのちかい」についてご紹介してきました。今回も「私たちのちかい」の三つ目の文章について、ご一緒にその意味を味わっていきたいと思います。

「私たちのちかい」には、日々このようなことを心がけて過ごすといいですよということが、浄土真宗の教えに照らして示されています。

日々を生きる中で、苦しいことや悲しいことがありながらも、「ああ生きていて良かったな」と人生を心豊かに味わっていける。そのような、人生を心豊かに味える心が育まれ、心が開かれてくることが、仏縁をいただき、仏法(仏教)を学ぶ大きな意味だと言われます。

仏法に照らされながら、日々を安らかに、心豊かに過ごし、人生を深く味わっていける。そうした生き方につながる日々の心がけや習慣が、この「私たちのちかい」に示されています。朝参りを通して、その内容を少しずつ味わっていきたいと思います。

さて前回は、「私たちのちかい」の二つ目の文章を味わいました。むさぼり、いかり、おろかさに流されず、しなやかな心と振る舞いを心がけるというものでした。この一カ月いかがだったでしょうか。

これも一回限りで終わらずに、自分の心や振る舞いを振り返り、確認するという習慣をつくることが大事なことです。ですから、できていなかったとあまり自分を責めることなく、引き続き自分の心や振る舞いを気にかけていただきながら、日々をお過ごしいただければと思います。

それでは、今回は「私たちのちかい」の三つ目の文章を見ていきましょう。まずは、ご一緒にご唱和したいと思います。それではご一緒くださいませ。

一、自分だけを大事にすることなく、人と喜びや悲しみを分かち合います。慈悲に満ちみちた仏さまのように。

「私たちのちかい」
https://www.hongwanji.kyoto/know/chikai.html

この三つ目の文章には、「自分だけを大事にすることなく」という言葉がまず示されています。これは、「自分だけを大事にするという生き方は、望ましい生き方ではないですよ」ということが示されているかと思います。

自分を大事にすることは、大切なことですね。ですが、自分だけを大事にすることは良くないのでしょうね。

さて皆さん。「自分だけを大事にすることが望ましい生き方ではない」と言われて、「ああ、そうだな」とすぐに頷けるでしょうか。

頷ける方は素晴らしいですね。でも何か素直に頷けない、ひっかかるという方もおられるかもしれませんね。そういう私も、「自分だけを大事にすることが望ましい生き方ではない」ことは、頭では分かるんですが、何か素直に頷けない、ひっかかるところがあったんですね。

それが何なのかと考えてみると、人間には「自分が可愛い」「自分を大事にしたい」という思いがありますね。生存欲求という根源的なレベルで考えると、どうしても自分だけを大事にして優先してしまうような性質を、私たちは抱えています。

極限など、突き詰めるところまでいくと、そうした自分だけを大事にしようとする欲求や性質から離れられないような気がして、ひっかかるところがあったんですね。

では、「自分だけを大事にすることなく」というこの言葉を、どのように受けとめていけばいいでしょうか。

私が思うのは、これを自分の周りにいる人として具体的に考えてみると、「自分だけを大事にすること」がいかに望ましくないことかが分かるように思います。

例えば、「自分だけを大事にする人」がどんな人か。具体的に例を挙げてみます。ちょっと想像してみてください。

・いつも自分の自慢話ばかりする人。
・人に対する思いやりが全く感じられない人。
・いいところを全部持って行ってしまう人。

いかがでしょうか。こんな人が自分の周りにいたら、あなたはその人と仲良くなりたいでしょうか。他にも例えば、

・自分の機嫌次第で態度がコロコロと変わる人。
・自分の都合の良いようにするために他人をおとしめる人。
・好き勝手ばかりして、周りにいつも迷惑をかける人。
・人がどう思うかを考えず、言いたいことを言いたいように言う人。

このように、「自分だけを大事にする人」がどんな人かを具体的に考えて、自分の周りにいると想像してみるといかがでしょうか。望ましい生き方ではないなと思いませんか。

「自分だけを大事にするという生き方は、望ましい生き方ではない」ということが、よくお分かりいただけるのではないでしょうか。

しかし自分自身もまた、そのような自分だけを大事にするという一面を持っているんですね。今の具体例を聞きながら、ドキっとした方もおられたかもしれません。私も言いながら、自分の耳が痛くなりました。

自分だけを大事にするような言動を、自分自身もとっているかもしれない。そして、周りの人に嫌な思いや辛い思いをさせているかもしれない。私たちは、「自分が良ければいい」というような自分中心の欲求を抱えて生きていますから、「自分だけを大事にしている」可能性は常にあるんですね。

だからこそ、こうした「私たちのちかい」を目にして、となえたり、心がけたりして、日頃から気を付けることが大切なんですね。それが、仏縁をいただき、仏法を学ぶ大きな意味となります。

自分の思うままに、欲望の赴くままに、自分だけを大事にしていれば人生幸せかというと、そうでもないんでしょうね。人からは疎まれ、恨まれ、孤立していくような人生を歩むことにもなるのでしょうね。

自分を大事にすることは大切なことですが、「自分だけを大事にするという生き方は、望ましい生き方ではないですよ」と示されているのが、「私たちのちかい」の三つ目の文章であり、仏教が説くところでもあります。

ではどういう生き方を心がければよいのでしょうか。

それは、自分だけを大事にするのではなく、人のことも大事にすることを心がけるということでしょうね。

具体的には、人のことを慮り、人の思いや立場などを想像しながら、理解しようとすること。そして、たとえ相手のことを理解できなくても、たとえ自分とは違っても、その人のことを大事にするということでしょうね。

勿論、違いを尊重するといっても、人のことを傷付けたり、被害を加えることなど、モラルに反することまで良しとするということではありません。

そうした、人のことを慮り、想像し、理解しようとする営みが、人と喜びや悲しみを分かち合うことにつながってきます。

心と心の琴線が奥底で触れ合うような深い共感から生まれる温もりや喜びは、得もいわれぬものがあります。こうした、人と喜びや悲しみを分かち合おうとする心を、慈悲とも言います。そして仏さまとは、そんな慈悲に満ちた方だと言われます。

仏さまのようには中々なれないですが、仏さまのようなあり方を志して生きることで、日々を安らかに、人生を心豊かに生きていくことにつながっていく。

苦しいことや悲しいことがありながらも、「ああ生きていて良かったな」と人生を心豊かに味わっていける。そうしたことが、「私たちのちかい」の三つ目の文章に示されている内容かと思います。

「私たちのちかい」を、ご自宅で仏さまに手を合わされる際などにとなえていただいたり、実際におこなってみて、日々の心がけ、習慣としていただければと思います。

では、最後に今一度、「私たちのちかい」の三つ目の文章をご唱和致しましょう。

一、自分だけを大事にすることなく、人と喜びや悲しみを分かち合います。慈悲に満ちみちた仏さまのように。

本日も、信行寺の朝参りに、ようこそお参りくださいました。


合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生

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