御布施の表書きと渡す向き【仏事作法解説】

ご遺族、ご門徒様から、このような質問をいただくことがあります。

「お包みの表書きはどう書いたら良いでしょうか」
「お包みをお渡しする時は、どちら向きでお渡しすれば良いでしょうか」

こうした質問です。

お通夜やご葬儀などに参列する時に、金封(お包み)の表書きに何と書いたらいいのだろうか。ご法事などで、ご自宅にお参りした時に、金封は、どちら向きに置いたらいいのだろうか。人それぞれ、違っていたりするので、分かりづらいですよね。

そうした疑問の声をいただきましたので、今回は、御布施などの「金封の表書きと渡す向き」について、解説をさせていただきます。是非ご覧いただき、安心してお参りいただくきっかけにければと思います。

なお、この内容は、浄土真宗本願寺派(本山は西本願寺)の内容でお話をさせていただきます。

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◆金封の表書き

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さて、金封(お包み)の表書きですが、お通夜やご葬儀、ご法事などで、喪主の方が僧侶に渡す場合は、「御布施」と書きます。「御布施」は、僧侶に渡すことが多いかと思いますが、もともとはご本尊である阿弥陀仏という仏様にお供えするものです。

我々僧侶も、「御布施」をお預かりして、お寺のご本尊の阿弥陀仏にお供えをさせていただきます。このように、喪主の方が僧侶に渡す場合は、金封に「御布施」とお書きいただければ結構です。

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次に喪主ではなく、お通夜やご葬儀、ご法事に参列する場合です。その場合、金封には「御香資」(ごこうし)や「御香典」(ごこうでん)、「御仏前」(ごぶつぜん)などと書きます。

「御香資」「御香典」とは、お香の代わりに金品をお包みしてお供えするという意味があります。お香をお供えするという文化は、昔から大切にされ、現代まで伝わっていると言います。

我々は、お仏壇やお墓などで、お参りをする時は、お線香などのお香をお供えさせていただきますね。また、お通夜、ご葬儀、ご法事では、お焼香をさせていただくこともありますね。お焼香も、香りをお供えするものです。

お通夜やご葬儀、ご法事に参列する場合にお渡しする金封に、「御香資」や「御香典」と書くのは、昔からお香をお供えするという文化があり、その名残が残っているからだそうです。

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また、お通夜やご葬儀、ご法事に参列する場合は、「御仏前」(ごぶつぜん)と書く場合もあります。これも、仏様にお供えするという意味合いから、「御仏前」という言葉が用いられています。御仏前とは、言葉の通り、仏様の前にお供えするということですね。

ちなみに、浄土真宗では、ご霊前という言葉は用いません。浄土真宗では、この世でいのちが尽きれば、阿弥陀仏という仏様のお浄土という仏様の国に生まれて往く。そして、仏様として新たな生、新たないのちをいただいていくと考えます。亡くなって霊になる、迷うというような考え方をしません。そういうことから、「御霊前」という言葉は用いません。

このように、お通夜やご葬儀、ご法事に参列する場合は、金封には、「御香資」や「御香典」、「御仏前」と書かれると良いでしょう。他の宗派のご葬儀やご法事に参列する場合でも、特別な差しさわりがなければ、浄土真宗本願寺派の仏事作法にのっとっておこなっていただいたらと思います。

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また、お寺の法要などに参詣する場合は、金封には「御布施」「御仏前」と書くことが多いです。これも、先ほどお話したように、金封は仏様にお供えするものですから、その意味がある「御布施」や「御仏前」と書きます。

◆金封を渡す向き

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次に、金封を渡す向きですが、お通夜やご葬儀、ご法事などで、喪主の方が僧侶に渡す場合は、受け手の僧侶側に向けて渡します。金封をお盆などにのせ、お渡しされると丁寧でしょう。

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次に、お通夜やご葬儀、ご法事に参列する場合や、お寺の法要に参詣する場合についてです。受付など、どなたか人に対面して金封を渡す場合は、相手の方に向けて渡します。

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また、お仏壇や本堂などの仏前(仏様の前)に直接お供えする場合は、こちら側に向けてお供えします。

お花などのお供え物も、こちらの我々側を向いています。お供え物が、こちら側を向いているのは、仏様からの恵みや、慈悲の心を表していると言われます。そうしたことから、仏前(仏様の前)にお供え物をする場合は、金封であってもこちら側に向けてお供えをします。

◆金封の種類

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次に、金封の種類についてです。お通夜やご葬儀、ご法事などの際には、黄色と白の水引の金封や、黒と白の水引の金封などを用いられることが多いです。お寺の法要などに参詣する際は、報恩講法要では赤と白の水引の金封、それ以外は黄色と白の水引の金封や、無地のものが一般的だそうです。

◆御布施とは

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最後に、御布施という言葉の意味について、簡単に補足させていただきます。「御布施」とはもともと、施しという意味があります。三施(さんせ)と言われるように、御布施の代表的なものとして、法施(ほうせ)、財施(ざいせ)、無畏施(むいせ)の三つがあります。

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法施(ほうせ)とは、仏法を伝え、施すという意味です。お寺の法要などで、僧侶がお説法をするなどして、仏法を伝え広めることが法施です。

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また、財施(ざいせ)とは、財を分かち施すという意味です。今回見てきたように、ご遺族やご門徒の方々が、金封にお包みされるものは財施に当たります。

この財施は、意味からするとお金に限ったことではなく、お寺とご縁ある方々が、野菜やお米などをお寺にお持ちになることがありますが、それも財施に当たります。

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お釈迦様の在世当時から、出家者が仏法を説いて法施をし、信者の方々が財施をして、お釈迦様たち出家者をサポートしていたという構図があったと言います。そうした、法施、財施のあり方があり、日本にも形を変えて浸透していると言えるかと思います。

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三施の無畏施(むいせ)とは、恐れを除き、安らぎを与えるという意味です。布施は、三施の他にも、色々なものがあります。

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このように、「御布施」とはもともと、施しという意味があります。施しであるため、お気持ちと言われたり、定額で表記されなかったりするんですね。

ただ、御布施の額が表示されないことが分かりにくいという側面もあるでしょうから、お寺側には、現代に合わせたあり方が求められているところもあるでしょう。御布施本来の思いやりや慈しみといった施しの心を大切にしながら、そうしたあり方が模索されていくことかと思います。

いかがだったでしょうか。今回は、仏事作法解説ということで、主に「金封の表書きと渡す向き」について、解説させていただきました。

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合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
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◇参考文献
・『浄土真宗必携 み教えと歩む』/浄土真宗必携編集委員会
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・『浄土真宗辞典』/浄土真宗本願寺派総合研究所
https://amzn.to/3ha42oh
・『新・仏事のイロハ』/末本弘然
https://amzn.to/3qintjE