仏壇には、「仏様に手を合わせる場所」という「仏教的な要素」と、「先立たれた方を思う場所」という「先祖教的な要素」とが交ざり合っています。
日本の仏壇は、「仏教と先祖教の二重構造」として形成されている。
こうした考え方について、数回にわたりご紹介をしてきました。
この考え方は、特定の宗派や浄土真宗の考え方というわけではありません。
ですが、仏壇について、仏教の教義的な側面からだけでなく、仏壇文化が形成されてきた歴史や、その時代時代における人々や遺族の心情なども含めて考えていくと、このような見方ができるかと思います。
長い歴史の中で、仏教や仏様を大切にする心と、亡き方を大切にする心とが交り合い、仏壇や仏壇文化が形成されてきました。
「仏壇の由来や成り立ち」について知ることで、「仏壇とは何か」がより明らかになります。
前回は、「仏壇の由来や成り立ち」について、特に仏教的な側面からみていきました。
今回は、先祖教的な側面から「仏壇の由来や成り立ち」についてみていきたいと思います。
「仏壇の由来や成り立ち」に関して、先祖教的な側面からだけでも、さまざまな要因が考えられます。
なかでも今回は特に、「位牌」「盆棚、精霊棚」「寺請制度と寺檀制度」という三つの視点からみていきたいと思います。
ご一緒に「仏壇とは何か」について、考える時間となれば幸いです。
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「仏壇の先祖教的な由来や成り立ち」について、「位牌」が関係しているという見方があります。
「位牌」は、亡くなられた方の名前や、法名(ほうみょう)、戒名(かいみょう)などが記されたものですね。
浄土真宗では、基本的には位牌を用いずに「過去帳」を用いますが、一般的には仏壇に位牌を安置することが多いです。
位牌の起源にはいくつかの説がありますが、主な説は、中国の儒教で用いられる神主(しんしゅ)を起源とするというものです。
神主とは、亡くなった方の名前や命日などを記したもので、位版(いはん)や木主(もくしゅ、ぼくしゅ)とも言われ、日本の位牌によく似ています。
この神主などが中国仏教に取り入れられ、禅の僧侶によって日本に伝わり、江戸時代に位牌が日本で広く用いられるようになったと言われています。
儒教における神主もそうですが、位牌は亡くなった方や先祖が宿るものとして、故人を偲ぶ象徴的なものとされています。
仏壇の中心は仏様などの御本尊ですが、位牌もまた中心的なものとして扱われてきました。
そのため、位牌が「仏壇の先祖教的な由来や成り立ち」に関係しているという見方があるのですね。
ちなみに、先ほども申しましたが、浄土真宗では基本的には位牌を用いずに「過去帳」を用います。
それは、位牌に亡くなられた方や先祖が宿るという考え方をしないからです。
そのため、亡くなられた方の記録を残すという意味合いの強い「過去帳」を用いることが勧められています。

「仏壇の先祖教的な由来や成り立ち」について、「盆棚」(ぼんだな)や「精霊棚」(しょうりょうだな)の影響があるとする見方があります。
「盆棚」「精霊棚」とは、お盆の時期に先祖をお迎えし、祀るための祭壇です。
「盆棚」「精霊棚」は、お盆の時期に設置される期間限定のものですが、それが常設化されたものが仏壇であるとするのがこの見方です。
これは主に民俗学という学問領域の見解です。
日本には、亡くなった人が年月を経て祖霊(それい)という先祖となり、子孫を見まもるという考え方があります。
そうした考え方を「祖霊信仰」と言いますが、先祖を大切な存在として祀る文化が日本には古くからあるのですね。
そして、その祖霊(先祖)がお盆の時期にかえってくると考え、盆棚(精霊棚)を設置し、お供え物をしたり、提灯を出したりして、先祖をお迎えする準備をします。
この盆棚(精霊棚)が常設化されたものが仏壇であるとするのがこの見方なのですね。
お盆は、表向きには仏教行事のように見えますが、日本の祖霊信仰にも基づいています。
祖霊信仰のことを私は先祖教と呼んでいますが、お盆も仏教と先祖教との二重構造になっているととらえると分かりやすいかと思います。
そして仏壇もまた、盆棚などの先祖教的な由来もありながら、仏教的な由来とも混ざり合いつつ、複合的に成立してきたとみるのが妥当な見方かと思います。
ちなみに浄土真宗では、亡くなられた方は阿弥陀仏の浄土(仏様の国)に往き生まれ、仏のさとりをひらき、私たちを見まもり、導いてくださる存在になると考えられてきました。
それは、お盆に限ったことではなく、いつでもどこでも私たちのことを見まもり、導いてくださっている存在であるので、お盆の時期だけ特別に盆棚を設置する必要はないとも言えます。
また、念仏や読経は、阿弥陀仏という仏様への感謝の思いからおこなうことを大切にしてきた宗派でもあります。
そのため、浄土真宗の門信徒の多い地域には、お盆の文化が希薄なところもあります。
ただし、完全にお盆に何をしなかったのかというとそうでもなく、浄土真宗の門信徒の方でもお盆にお墓参りをしたり、本願寺でもかなり以前からお盆の行事がおこなわれてきたという歴史があります。

「仏壇の先祖教的な由来や成り立ち」について、「寺請(てらうけ)制度」や「寺檀(じだん)制度」の影響が大きいと考えられています。
「寺請制度」とは、江戸時代の初め頃、幕府が主にキリスト教の布教や信仰を禁止するためにおこなった制度のことです。
徳川家康は、江戸幕府を開いた当初、諸外国との貿易に対して前向きでした。
日本において、オランダやイギリスは貿易を主な目的としていたようですが、ポルトガルやスペインは貿易だけではなく、宣教師が一緒に来て、キリスト教の布教も盛んにおこなっていました。
そうして日本にも急速にキリスト教の信者が増え、1600年代の初頭には、数十万人ものキリスト教信者が日本にいたとも言われています。
この頃アジア諸国では、キリスト教の布教がおこなわれた地域で、ヨーロッパ諸国による軍事支配が進み、植民地になる国が増えていました。
キリスト教の信者の増大に不安を感じた家康は、1612年に幕府の直轄領に対して禁教令を出し、翌年にはそれを全国に広げ、キリスト教信者に改宗を迫ります。
こうして、家康、秀忠、家光と、徳川幕府は三代にわたり、キリスト教の禁教と貿易の統制を段階的に厳しくしていきました。
その決定打となったのが、1637年におきた島原の乱です。
天草四郎時貞(ときさだ)を総大将とし、キリシタン大名の旧家臣たちが中心となり起こした一揆が島原の乱ですね。
幕府は大軍勢を動員し、翌年に鎮圧をしましたが、この島原の乱による衝撃は大きく、キリスト教の禁教と貿易の統制を一層厳しくしたと言われています。

島原の乱の後、幕府は「宗門改め」(しゅうもんあらため)をおこない、日本の全ての人に対してにキリスト教信者ではないことを証明させるため、寺院の檀家にさせました。
また、「宗門人別改帳」(しゅうもんにんべつあらためちょう)を町や村ごとにつくらせ、縁組や移住、旅行の際などはお寺に届け出をさせ、「寺請証文」(てらうけしょうもん)という証明書の発行を義務づけるよう制度化していきました。
こうしてキリスト教の布教や信仰を禁止するためにおこなったのが「寺請制度」であり、幕府は人々を管理して幕藩体制を維持するために、寺院をその制度の中に組み込んでいきました。
「寺請制度」によって、誰もが特定のお寺を「檀那寺」(だんなでら)とし、「檀家」となることを義務付けられました。
そして、お寺への参詣や葬儀や法事などをおこなうことが奨励されていきます。

このような「檀那寺」と「檀家」の関係性を固定化し、葬儀や法事を特定の寺院が執り行うようにした制度を「寺檀(じだん)制度」、通称「檀家制度」とも言います。
こうした幕府による制度化が進められ、寺院側のはたらきかけもあり、仏教式の葬儀や法事が人々の間に浸透をし、各家庭に仏壇が普及していきます。
身近な人が亡くなったら葬儀をし、命日には法事をおこなう。
位牌や過去帳を安置した仏壇を各家庭に置き、手を合わせ拝む。
そうした、仏事供養事をおこなうことが日常化、常識化していきます。
それは、「寺請制度」や「寺檀制度」による影響が大きかったと考えられています。
こうしたことから、「仏壇の先祖教的な由来や成り立ち」について、「寺請制度」や「寺檀制度」による影響が大きいと考えられています。
◆
いかがだったでしょうか。
今回は、先祖教的な側面から「仏壇の由来や成り立ち」についてご紹介しました。
なかでも今回は特に、「位牌」「盆棚、精霊棚」「寺請制度と寺檀制度」という三つの視点からみていきました。
こうしてみてみると、様々な要因によってこんにちの仏壇が形づくられてきたことが分かります。
最後に、これまで数回にわたりご紹介してきた内容をまとめたいと思います。

繰り返しになりますが、仏壇とは仏教的な側面からいえば、「仏様を安置し、手を合わせる場所」であると言ってよいでしょう。
家庭に仏壇を置くということは、礼拝や信仰の対象となる本尊を安置し、手を合わせ、仏様を思うひとときを日常の中にもつことと言えます。
法話を聞いたり、仏教書を読むことなどを通して、仏様の温もりに触れるときに、私たちは安心や温もりを感じたり、自然と手が合わさることがあります。
仏壇を自宅に安置し、阿弥陀仏を御本尊としてむかえるということは、家庭の中に安心や温もりを感じ、心の依りどころとなる場所ができるということでもあります。

そしてまた、「仏壇」は「仏様に手を合わせる場所」であると同時に、遺族にとっては「先立たれた方を思う場所」でもあるでしょう。
多くの方が、家族を亡くしたことをきっかけに仏壇を家庭に安置なさいます。
亡くなった方が大切な方であればあるほど、その方との別れを受けとめることは難しいものです。
日本では昔から、亡き人を思い、手を合わせることを通して、その方とまたつながり直そうとしてきました。
そうした、亡き人を思い、つながり直していく場として、仏壇は受けとめられてきたのではないでしょうか。

仏壇には、「仏様に手を合わせる場所」という「仏教的な要素」と、「先立たれた方を思う場所」という「先祖教的な要素」とが交ざり合っています。
日本の仏壇は、「仏教と先祖教の二重構造」として形成されている。
この考え方は、特定の宗派や浄土真宗の考え方というわけではありませんが、このようにとらえると、「仏壇とは何か」が明確になり、腑に落ちるものがあるのではないでしょうか。
長い歴史の中で、仏教や仏様を大切にする心と、亡き方を大切にする心とが交り合い、仏壇や仏壇文化が形成されてきました。
「仏壇の由来や成り立ち」について知ることで、「仏壇とは何か」がより明らかになります。
特に現代の日本では、仏壇がない家庭で育つ方や、お寺とのご縁が少ない方も増えています。
だからこそ今、改めて「仏壇とは何か」について考えることも大切なことのように思います。
そうした思いから、何回かにわたって「仏壇の由来や成り立ち」について、ご紹介をしてきました。
皆様にとって、「仏壇とは何か」を考える機会となれば幸いです。
合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
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◇参照文献
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・『勤行意訳本』/神崎修生
(『勤行意訳本』については、信行寺までお問い合わせください。 (https://shingyoji.jp/ )
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