信行寺で開催している「朝参り」では、皆様の心が少しでも安らぐようなご縁となればと思い、法話をしております。動画と文章でご覧いただけるようにしましたので、宜しければご覧くださいませ。
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皆様、本日も信行寺の「朝参り」に、ようこそお参りくださいました。
「朝参り」では、短い法話をしております。法話を通して、少しでも心が安らかになったり、一日、一カ月を心新たに過ごすようなご縁となれば幸いです。
さて今日は、「別れを悼む」というテーマでお話をさせていただきます。
先日、たまたまBBCのドキュメンタリー番組を見ていて、興味深い内容がありました。BBCというと、イギリスの放送協会ですね。そのBBCのグループが制作したドキュメンタリー番組でした。
どういう番組の内容かというと、野生の動物たちの中にカメラをしかけて、その生態を探るという内容でした。番組のタイトルは、「Spy in the Wild」という名前で、「野生動物に潜入する」というような意味のタイトルでしょうか。
カメラを野生動物の中にただ設置するだけではなくて、動物にそっくりなロボットにカメラがつけられていて、群れの中にそのスパイロボットを置いておくんですね。
スパイロボットは、見た目も動きも、その動物にそっくりに作られていて、段々と群れの中になじんで受け入れられていきます。ですから、動物たちの飾らない、自然な生体が映し出されていて、見ていて「へー」「そうなんだ」と驚きの連続でした。
インド北部に生息するおサルさんの群れの中に、スパイロボットが潜入した時の内容が、個人的には特に驚きでした。
ハヌマンラングールというおサルさんで、金色のような毛をしたおサルさんです。愛情深いサルとも言われていると、番組では紹介されていました。
そのハヌマンラングールの子育ての仕方が独特で、3週間くらいまではお母さんザルが赤ちゃんを育てるのですが、その後は、群れの若いメスが子守りをすることがあるようです。まるで、人間でいえばベビーシッターに子守をしてもらう感じです。
お母さんザルは、若いメスが子守りをしてくれている間に、食事をとったり、毛繕いをしてもらったり、しばし休息をします。子育ては大変ですからね。
その間も、群れの若いメスたちが、赤ちゃんに寄ってきて、世話をやいたり、面倒を見ようとするんですね。そんな様子から、愛情深いサルとも言われるのかもしれません。
その群れに、スパイロボットが潜入していました。赤ちゃんザルにそっくりな見た目と動きをするロボットです。
すると、若いメスの一頭が、その赤ちゃんザルのロボットの子守りをしようとしたんですかね。抱こうとした時に、事故が起こります。
若いメスザルは、赤ちゃんザルのロボットを、誤って高いところから落としてしまったんですね。
本物のおサルの赤ちゃんだったら、自分で身体に抱きつきますが、ロボットは抱きつきませんから、手を離した時に落としてしまったんですね。
すると、落とした若いメスは、慌てて赤ちゃんザルのロボットのところに駆け寄って、ぎゅっと抱きしめました。
しかし、高いところから落ちたロボットは、動かなくなってしまいました。
そこからが驚いたところなんですが、若いメスザルは、赤ちゃんザルのロボットが動かなくなってしまったことに気付いて、悲しそうな様子で、ロボットをそっと地面に置きました。
そしてそれだけでなく、群れの皆が次々に集まってきて、赤ちゃんザルのロボットに近づいては、顔を寄せたり、触ったりして確かめ、悲しそうにうなだれるんですね。
そのおサルさんたちは、ロボットとは思ってませんからね。自分たちの赤ちゃんが亡くなってしまったと思っているんでしょうね。
サル同士が抱き合い、肩を寄せ合いながら、深い悲しみを共有しているような様子が、番組では映し出されていました。
身近な家族や仲間を失って悲しむのは、ひょっとすると人間だけではないのかもしれない。そんなことを思わされた番組でした。
おサルさんは霊長類なので、家族や仲間との別れを悲しむこともあるのかなと、頷けるところはあります。しかしその番組では、キリンが仲間との別れを悲しむ様子も映し出されていて、さらに驚きました。
アフリカのサバンナで、一頭の高齢のオスのキリンが亡くなりました。
すると、そうした情報が皆に伝わるのでしょうか。各地から次々とキリンが、亡くなったオスのキリンのところに訪れる様子が映し出されていました。一日中、キリンの来訪が絶えなかったそうです。
その様子は、人間で言えば、まるでお通夜やご葬儀の弔問に訪れるようでした。
各地から多くのキリンが次々と訪れ、亡くなったオスの近くで佇み、深々とおじぎするんですね。そのおじぎの作法が、人間と同じような意味を持っているかどうかは分かりません。
ですが、仲間との別れを悲しみながら、何かを語りかけているような様子に見えました。人間で言えば、棺の中のお身体に触れ、言葉をかけたり、手を合わせたり、お焼香をしたり。まるでそんな様子に見えました。
そんな別れを悲しむようなキリンの姿が映し出されていて、とても驚きました。
今回、このBBCのドキュメンタリー番組を見て思ったことは、一つは動物でも別れを悲しむということがあるのかもしれないということです。
本当に動物が別れを悲しんでいるのかについては、諸説あるそうですね。ですが、今回の番組では、別れを悲しんでいるのではないかというようにまとめられていました。動物が別れを悲しんでいるような例は、調べてみると他にも数多くあるようです。
この番組を見て、もう一つ思ったことは、私たち人間にとっても、大切な家族や仲間との別れを悼むことは、とても本質的な思いや行為なのだろうなと改めて思いました。
イラク北部にある数万年前の遺跡からは、ネアンデルタール人が亡くなった方を埋葬していた痕跡があるとも言われています。
その中に子どもの遺骨があり、そこには花がたむけられている痕跡が残っているそうです。
これも諸説あって、その真偽は分かりませんが、いずれにせよ、亡くなった人に花をたむけるという文化は昔からあり、未だに世界各地でおこなわれています。
日本の仏教においても、仏様にお花をお供えします。お花と、ロウソクの灯りと、お香の香り。この三つは三具足(みつぐそく)と言い、お供え物の代表的なものとされています。
お供え物というと、お菓子や果物、ご飯、お水などをイメージするかもしれません。もちろんそれらもお供え物ですが、ロウソクの灯りやお香の香り、お花という三具足は、お供え物の代表的なもので、由来がとても古いと言われています。
こうしたことを知ると、我々が日頃からおこなっているお供え物や、お仏壇のお飾りなども、由来が古く、とても本質的なものなんだなと思わされます。皆様はどう感じられるでしょうか。
大切な方との別れを悼み、手を合わせ、思いをかけ、お供え物をする。そうした行為や思いは、とても本質的なものなんでしょうね。
そしてまた、浄土真宗においては、先に往かれた方とは、ただ離れ離れになったとは考えません。お浄土に往き生まれ、仏様となって見まもってくださっている。浄土真宗では、そのような世界観が昔から大切にされてきました。
別れた直後は、悲しみや後悔も募りますが、時間をかけながら、手を合わせながら、仏縁や仏法を通して、大切な方と出遇いなおしていく。そういう世界観が育まれていきます。
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今回は、「別れを悼む」というテーマで、生物的な観点、また人間の歴史や文化などの観点からお話をさせていただきました。
皆様、どのようにお感じになられたでしょうか。また是非、ご感想もお聞かせください。
本日も信行寺の朝参りに、ようこそお参りくださいました。
合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
南無阿弥陀仏