お盆が近づいてきたら、お盆のお供え物について、気になるという方も多いかと思います。

そこで今回は、お盆のお供え物について解説致します。お盆を迎える際の参考にしていただければ幸いです。

なお、この解説は浄土真宗本願寺派(本山は西本願寺)の内容でお話させていただきます。

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◆お盆のお供え物の種類

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さて、浄土真宗のお供え物の基本は、お仏飯、お餅、お菓子、果物などとされています。お盆も、この基本のお供え物の延長でしていただければ結構です。

お仏飯とは、仏様にお供えするご飯のことです。仏飯器(ぶっぱんき)という器にご飯を丸く盛り、仏様の前にお供えします。お仏飯は毎日お供えするもので、平常時のお供え物の基本になります。お盆でも同様に、お仏飯をお供えします。

お仏飯をお供えするタイミングは、朝に仏様に手を合わせる時にお供えするのが一般的です。もし、朝に時間がない場合や、朝にご飯は炊かないという方は、昼食や夕飯の前にお供えするのも良いかと思います。

お仏飯をお供えするのは、我々がいただいている恵みに感謝するという意味もありますから、手を合わせ、お参りを終えたら、お仏飯は下げて、できれば召し上がっていただくと良いです。

お盆のお供え物ですが、お仏飯に加えて、先程申した通り、お餅、お菓子、果物などをお供えします。

季節のものをお供えすると、お盆らしさが出ていいかと思います。例えば一例ですが、果物は西瓜(すいか)や、お菓子は落雁(らくがん)や羊羹(ようかん)などをお供えされる方も多いです。水羊羹など、夏らしいですよね。

また、素麺なども夏らしくていいかと思います。日持ちもしますし、信行寺でも、お盆に素麺もお供えしています。

◆お盆のお供え物の仕方

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お盆のお供え物の仕方ですが、お仏壇の中は、お供え物であふれるようにはせず、できるだけすっきりさせておくことが良いとされています。

お仏壇の中にお供え物をする場合は、供笥(くげ)の上にお供え物を置き(盛り)、対にしてお供えすると綺麗です。

お仏壇の中に入らない場合には、お仏壇の横などに台を置き、その上にお供えすると良いでしょう。

お仏壇の前にある経卓(きょうじょく)は、お経の本を置くためのものですので、経卓の上にはお供え物は置かないように致しましょう。

◆初盆の場合

また、初盆(新盆)の場合は、葬儀社さんの勧めなどで、初盆用の棚を設置する場合もあるかと思います。

その場合は、葬儀社さんがお供え物もご用意されるかと思いますが、お供え物の種類は、先ほど申したように、お仏飯、お餅、お菓子、果物などが基本となります。

◆お盆のお花

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また、お花もお供え物です。花瓶(かひん)というお花を生ける仏具がありますので、花瓶にお花を生けお供えします。

お花を多くお供えしたい場合は、通常の花瓶(かびん)に生けて、お仏壇の横などにお供えされている方もおられます。

お花の種類ですが、一例ですが、ほおづきなどの夏の季節のものを加えると、お盆らしい雰囲気が出るかと思います。

仏様にお供えするものですので、毒があるお花や、棘(とげ)のあるお花は用いないとされています。

◆浄土真宗のお盆の考え方

ここからは少し突っ込んで、浄土真宗のお盆の考え方をお話したいと思います。

と言いますのが、一般的にお盆でされているお供え物や行為について、浄土真宗ではする必要がないとされているものがいくつかあります。

具体的に言いますと、精霊馬(しょうりょううま)や霊具膳(りょうぐぜん)、迎え火、送り火などは、する必要がないとされています。

そして、これらのことに関して、質問を受けることもあります。

「浄土真宗では、迎え火や送り火はしないんですか?」「お盆のお供え物は、スーパーに売っているナスやキュウリのお供え物で良いのでしょうか?」。

このような質問を、お盆が近づくとご門徒の方からいただくことがあります。

今回、ここまで突っ込んでお話するかどうか迷ったのですが、お盆のお供え物などは、門信徒の方々やご遺族にとって関心が高いことかと思いますので、お話をさせていただきます。

さて、先程申した通り、浄土真宗では、精霊馬(しょうりょううま)や霊具膳(りょうぐぜん)、迎え火、送り火などは、する必要がないとされています。

「する必要がない」とだけお伝えしてしまうと、先に往かれた方への思いや、これまでしてきたことを否定されたように感じる方もおられるかもしれませんが、そういうことではないことを、まず補足しておきたいと思います。

する必要がないとされているのは、浄土真宗の世界観や価値観に照らし合わせて考えてみると、する必要がないということなんですね。

ですので、ただ「する必要がない」とだけお伝えするのではなく、浄土真宗のお盆の考え方についても合わせて、補足しながらお話したいと思います。

それともう一点補足ですが、お盆の文化やお供え物などは、地域の慣習や習俗、日本や東洋の文化、宗教などといった多様な要素が入り混じって出来上がっていると言われています。

また、お盆の文化は、日本への仏教伝来よりも以前からあるとも言われます。日本仏教や浄土真宗の文脈とは違うお盆の文化が、日本にはもともとあるということになります。そうしたお盆の文化や習俗的なものが、仏教の伝来以後に、仏教と結びついていったとも言われます。

ですので、今回は浄土真宗の世界観や価値観と照らし合わせて、お盆のお供え物や行為についてお話していますが、浄土真宗の仕方と違うからと言って間違っているかというと、そういうものではないと思うんですね。

未だに地域の文化や習俗が色濃く残っていて、それを子どもの頃から大切におこなってきたという方や、嫁いでからおこなっているという方もおられることでしょう。

今回の話は、そうした受け継がれてきたものを否定するものでもありませんし、先に往かれた方やご先祖への思いを否定するものでもありません。その点、ご留意いただきながらお聞きいただければと思います。

そして、特に差しさわりがない方は、今回のお話を聞いた上で、浄土真宗の仕方でお供え物などをしていただければと思います。

浄土真宗は浄土真宗で、その世界観や価値観に基づいて、お盆の行事やお供え物、儀礼作法を整備してきたという経緯があります。

死者のたたりや汚れといった習俗に捉われず、その考え方や世界観が、人々の不安や恐怖を和らげてきたという歴史もあります。

ですので、特に差しさわりがない方は、浄土真宗の仕方でお供え物などをしていただければと思います。

「これまでしてきたものも大切にしたい」「そうしないと差しさわりがある」という立場や思いをもった方もおられるでしょうから、そういう方は、あまり無理しない範囲でしていただければ、私は結構かと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、浄土真宗ではする必要がないとされているお盆のお供え物や行為について、浄土真宗のお盆の考え方と合わせてお話させていただきます。

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先ほど申した通り、精霊馬(しょうりょううま)は、浄土真宗ではお供えする必要がないとされています。

精霊馬は、キュウリを馬、ナスを牛に見立てて、お盆の時期にご先祖の霊が、あの世とこの世を行き来するための乗り物としてお供えするという意味があると言われます。

しかし、浄土真宗では、この世でのいのち尽きた方は、阿弥陀仏という仏さまの浄土(仏の国)へ往き生まれ、その後、阿弥陀仏とともに私たちを照らし、救おうとはたらきかけてくださっているという世界観を大切にしています。

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浄土真宗の宗祖である親鸞聖人は、『高僧和讃』にこのような言葉を記されています。

願土(がんど)にいたればすみやかに
無上涅槃を証してぞ
すなはち大悲をおこすなり
これを回向となづけたり

『高僧和讃』/親鸞聖人

この言葉について、本願寺から出ている『拝読 浄土真宗のみ教え』という本のお盆という項目では、このように追記されています。

浄土へと往生した人(仏の国へと往き生まれた人)は、如来の願力(阿弥陀仏の願いの力)によってすみやかにさとりをひらき、大いなる慈悲の心をおこす。迷いのこの世に還り来たり、私たちを真実の道へ導こうと常にはたらかれるのである。

『拝読 浄土真宗のみ教え』

仏の国に往き生まれていった懐かしい人たち。仏のはたらきとなって、いつも私とともにあり、私をみまもっていてくださる。このように追記されています。

この世でのいのち尽きた方は、ただ亡くなるのではなく、阿弥陀仏の救いのはたらきによって、仏の国へと往き生まれ、すぐさま仏のさとりをひらく。

そして、慈悲の心から、私たちが生きるこの世へと還り来て、仏縁を育み、仏法に導こうとはたらきかけておられる。

その姿とは、お盆だけにかえってきて、またお盆が終われば、あの世に戻っていくというものではなく、いつも私たちとともにあり、私たちをみまもってくださっている。

このような世界観を、浄土真宗では大切にしているんですね。

先に往かれた方は、お盆だけにあの世とこの世を行き来されるのではなく、いつも私たちとともにあり、みまもり、仏縁、仏法へと導こうとはたらきかけてくださっている。

ですので、お盆にあの世とこの世を行き来するという意味合いのある精霊馬は、お供えする必要がないとされています。

また、霊具膳(りょうぐぜん)と言われるお膳も、お供えする必要がないとされています。霊具膳は、亡くなられた方を食べ物でご供養するという意味合いがあると言われます。

ですが、浄土真宗では、先に往かれた方は、安らかなさとりをひらかれた方だと考えます。安らかなさとりをひらかれ、いつも私たちのことを照らし、みまもり、仏縁、仏法へと導こうとはたらきかけていると考えます。

このような世界観を大切にする浄土真宗では、私たちの側から先に往かれた方を供養するという考え方よりも、仏さまや先に往かれた方に、むしろ私たちの方が照らされ、みまもられ、導かれていると味わっていくんですね。

ですので、私たち側から食べ物でご供養するという意味合いのある霊具膳をお供えする必要がないとされています。

浄土真宗におけるお供え物は、先に往かれた方への思いを大切にしながら、いただいている恵みやご恩に感謝する意味合いからなされます。

浄土真宗では、その世界観や価値観と照らし合わせて、お供え物や儀礼作法などの意味合いを一貫しているところがあります。そのため、お供え物を供養のものというよりは、恵みや感謝の表れとしてお供えし、その意味合いを一貫させているんですね。

そうした一貫性が、日本で一般的におこなわれているお盆のお供え物や行為を、浄土真宗ではする必要がないというような、ある種の独特さを生み出しているとも言えます。

また、お供え物ではありませんが、迎え火や送り火も、浄土真宗ではする必要がないとされています。

迎え火や送り火は、亡くなられた方の霊が、この世とあの世を行き来する時に迷わないように照らしたり、送り出したりするための明かりだと言われます。

ただし、先ほどお話したように、先に往かれた方は迷っておられるのではなく、安らかな仏のさとりをひらかれ、いつも私たちをみまもり、仏縁、仏法へと導いてくださっているという世界観を、浄土真宗では大切にしています。

迷っているのは、先に往かれた方ではなく、むしろ、欲や怒りなどの煩悩を抱え、苦悩して生きている私たちのほうだと味わっていくんですね。

いのち尽きた後に往く、仏の世界は安らかな境界であり、この世は迷いの境界であると経典には出てきます。

その迷いの境界にいて苦悩し、迷っている私たちを、智慧の光で照らし、仏縁深き、喜びの人生へと導いてくださっているのが阿弥陀仏という仏さまであり、先に往かれた方々だという世界観を大切にしています。

ですので、迎え火や送り火をする必要がないとされています。照らされ、導かれているのは、むしろ私たちのほうだと味わっていくんですね。

迎え火や送り火をする必要がないなんて言われると、びっくりする方もおられるかもしれませんが、このあたりも浄土真宗の世界観や価値観に照らし合わせて、一貫している部分と言えます。

ちなみに、お仏壇で蝋燭の明かりを灯すのは、私たちの心を照らす仏さまの光の象徴だと言われます。

迎え火や送り火はする必要はありませんが、私たちの心を照らしてくだっているという意味合いから、お盆に提灯をお飾りする分には味わい深く、また夏らしくて良いのではないかなと個人的には思います。

ここまで、精霊馬や霊具膳、迎え火や送り火は、浄土真宗ではする必要がないとされていることをお伝えしてきました。

繰り返しますが、これは受け継がれてきたものや、先に往かれた方やご先祖への思いを否定するものではありません。

浄土真宗の世界観や価値観と照らし合わせてみると、日本でおこなわれている一般的なお盆のお供え物や行為について、その一部はする必要がないのではないかということで、する必要がないとされています。

そして、先に往かれた方がお盆だけでなく、いつもともにあり、みまもり、導いてくださっている。そのようにお盆だけでなく平常時から、先に往かれた方のことを偲び、手を合わせることを大切にしているのが浄土真宗という宗派でもあります。

お盆という昔から続く、日本の文化を大切にしながらも、日常の手を合わせる延長線上にお盆を捉えていくところが、浄土真宗のお盆の考え方の特徴とも言えるかと思います。

いかがだったでしょうか。

今回は、お盆のお供え物について解説致しました。お盆を迎える際の参考にしていただければ幸いです。


合掌
福岡県糟屋郡 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生

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◇参照文献:
・『浄土真宗聖典』注釈版/浄土真宗本願寺派
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・『拝読 浄土真宗のみ教え』/編集委員会
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